自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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 資料 2008.06.16
 

【控訴審】被控訴人(国)側の答弁書



平成20年(ネ)第352号  自衛隊のイラク派兵差止等請求控訴事件
控訴人   藤岡崇信ほか44名
被控訴人  国

答  弁  書

平成20年6月16日
福岡高等裁判所第3民事部へ係  御中
被控訴人指定代理人

※代理人名簿省略

第1 控訴の趣旨に対する答弁

 1 本件控訴をいずれも乗却する
 2 控訴費用は控訴人らの負担とする
  との判決を求める。

なお,仮執行の宣言は相当でないが、仮に仮執行宜言を付する場合は、
(1) 担保を条件とする仮執行免脱宣言
(2) その執行開始時期を判決が被控訴人に送達された後14日経過した時とすることを求める。


第2 被控訴人の主張

1 原判決の判示は正当であること

被控訴人の主張は、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。原判決は結論として正当であって、本件控訴は、理由がないから、速やかに棄却されるべきである。

なお、本件と同種の訴訟において、東京高等裁判所は、平成18年7月13日、憲法判断をすることなく自衛隊派遣等の差止めを求める訴え及び違憲確認を求める訴えを不適法であるとして却下し,平和的生存権等の侵害を理由とする損害賠償請求を主張自体失当であるとして棄却した一審判決を維持して控訴人ら(一審原告ら)の控訴を棄却し(乙第9号証の1)、その後、控訴人らが上告したところ、最高裁判所第一小法廷は、同年11月30日、上告を棄却した(乙第9号証の2及び3)。さらに、その後、東京高裁平成19年1月31日判決(乙第10号証の1)及び東京高裁平成19年2月15日判決(乙第11号証の1)においても、憲法判断をすることなく同様の判断がされ、各事件の控訴人ら(一審原告ら)は上記判決を不服としてそれぞれ上告したものの(乙第10号証の2、乙第11号証の2)、最高裁判所第一小法廷は同年6月21日、同第三小法廷は同月12日、いずれも上告を乗却した(乙第10号証の3、乙第11号証の3)ところである(なお,東京高裁平成19年1月31日判決の事案では、違憲確認請求はされていない。)。


したがって、控訴人らの自衛隊派遣等の差止めを求める訴え及び違憲確認を求める訴えが不適法として却下されるべきものであり、平和的生存権等の侵害を受けたとする損害賠債請求は主張自体失当であるとの判断は,最高裁判所で確定したといえる。

2 名古屋高裁判決における憲法判断は、傍論にすぎないこと

控訴人らは,控訴理由書において、名古屋高等裁判所平成18年(ネ)第499号自衛隊のイラク派兵差止等靖求控訴事件に係る平成20年4月17日判決(以下「名古屋高裁判決という。なお、同種事案に関する同日付けの名古屋高等裁判所判決は3件あるが、控訴人ら指摘の判決は、上記判決であると思われる。」について言及し、原判決が自衛隊のイラク派遣等の違憲性について判断していない点を非難している(控訴理由書4ないし6ページ)。

しかしながら、名古屋高裁判決における憲法判断は、以下に述べるとおり、下級審における傍倫にすぎない。

 (1)名吉屋高裁判決の事案の概要と判示
ア 事案の概要
名古屋高裁判決に係る事案は、本件と同種の訴訟であって、名古屋等に居住する同事件の控訴人らが、被控訴人である国に対し、被控訴人がイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(以下「イラク特措法」という。)に基づきイラク及びその周辺地域に自衛隊を派遣したことは違憲であるとして、同派遣の差止め(以下「差止請求」という。)及び同派遺が憲法9条に反し違憲であることの確認(以下「違憲確認請求」という。)を求めるとともに、同派遣によって平和的生存権等の侵害を受けたなどとして、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき損害賠償を求めた事案である。

イ 判示
同判決は、差止請求について、民事訴訟としての差止請求は、行政権の行使に対し私人が民事上の給付請求権を有すると解することはできないとして、行政訴訟としての差止請求は、控訴人らが法律上の利益を有するとはいえないとして、いずれも不適法であるとして訴えを却下し(最高裁判所ホームページの下級裁判所判例集に掲載されている当該事件の判決書(以下単に「判決書」という。)23ないし25ページ)、違憲確認請求についても,確認の利益を欠き不適法であるとして訴えを却下するとともに(判決書23ペ一ジ)、国家賠償請求ついては、被侵害利益(の侵害)がいまだ生じているということはできないとしてこれを棄却した(判決書25ページ)。

 (2)憲法判断は結論を導く上で必要のない傍論てあること
ア 名古屋高裁判決における憲法判断
一方、同判決は、「現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。」と判示して、航空自衛隊の空輸活動について憲法判断を示した(判決書21ページ)。

イ 上記憲法判断は、判決の結論を導く上で全く必要がないこと
しかしながら,上記憲法判断は、判決の結論を導く上で全く必要のない傍輪である。

すなわち、同判決は、差止請求及び違憲確認請求については、前記(1)イの理由により、これらに係る訴えをいずれも不適法として却下しているのであるから、その結論を導く上で、航空自衛隊の空輸活動が憲法に反するか否か及びその前提となる事実関係といった本案の内容について認定・判断する必要は、論理的にも全くない。

また,同判決は,国家賠償請求については,同事件の控訴人らに被侵害利益の侵害が生じているということはできないとしてこれを棄却しているところ、国賠法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるから(最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決、民集59巻7号2087ぺ一ジ)、そもそも権利利益の侵害が生じているということができない場合には、当該公務員の職務上の法的義務自体を観念することができず、当該公務員の行為が同法の適用上違法となることはあり得ないのであり、国家賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことになる。したがって、同事件の控訴人らに権利利益の侵害が生じているということができない以上、上記結論を導く上で、航空自衛隊の空輸活動が憲法に反するか否か及びその前提となる事実関係について認定・判断する必要は、論理的にも全くない。

ウ 小括
以上のとおり、名古屋高裁判決における憲法判断は、結論を導く上で全く必要のない傍論にすぎないことは明らかである。

3 下級審における傍論としての憲法判断は、学説等においても消極的に評価されていること

 (1)日本国憲法においては、違憲審査について付随的審査制が採用されていること
憲法81条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定め、裁判所に違憲審査権を認めている。そして、[1]同条が「第6章司法」の章に定められているところ、司法とは、具体的な権利義務に関する争い、または一定の法律関係の存否に関する争いを前提とし、それに法令を適用して紛争を解決する作用であり、違憲審査権はその作用に付随するものとして同条に明記されたものと解されること、[2]司法の本来的作用を超えた抽象的違憲審査が認められるためには、それを積極的に明示する規定が憲法上存在しなければならないものと解されるところ、そのような規定は存在しないことからすると、同条が定める遠違憲審査制は、裁判所が具体的な争訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で適用法条の違憲審査を行う方式、すなわち付随的違憲審査制であると解される。いわゆる警察予備隊訴訟に関する最高裁判所昭和27年10月8日大法廷判決(民集6巻9号783ページ)も「わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行いうるものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異なることはないのである(憲法76条1項参照)。Jと判示してこの理を明らかにしているところである。

 (2)傍論における憲法判断をめぐる学説の状況
上記(1)のとおり、日本国憲法においては、付随的違憲審査制が採用されており、具体的な争訟事件について判断を行うことを役割とする裁判所において、結論を導く上で全く必要のない憲法判断を示すことは相当でない。学説においても、傍論において憲法判断を行うことについては、以下のとおり、下級審が傍論で憲法判断をすることに消極的な見解が多い。

ア 芦部信喜教授の見解
芦部信喜教授は、憲法学V人権各論(1)[増補版](乙第12号証)において、中曽根総理大臣(当時)の靖国神社へのいわゆる公式参拝に関する大阪高等裁判所平成4年7月30日判決(判例時報1434号38ぺージ)が、傍論において公式参拝は違憲の疑いがあると判示した点について、「事件の解決に直接必要でない場合でも、合理的理由が存するかぎり、裁判所が憲法問題について一定の見解を傍論で明らかにすることは、許されないわけではない。しかし、高裁が、しかも一審判決で合憲判断が示されたような事件であればともかく、そういう事情もないのに、控訴人・被控訴人の主張を受けて、傍論で違憲の疑義を表明することは、憲法訴訟のあり方として、その適切性に議論の余地もあるであろう。」(同書198,199ページ)と述べている。

イ 浜谷英博助教授の見解
浜谷英博助教授は、「違憲審査制と控訴審判決の在り方−仙台高裁・大阪高裁における「傍論」による違憲判決を契機として−」(政教研紀要17号。乙第13号証)において、いわゆる岩手靖国訴訟に関する仙台高等裁判所平成3年1月10日判決(判例時報1370号3ページ)及び前掲大阪高等裁判所平成4年7月30日判決が、一審原告らの請求をすべて却下又は棄却しておきながら、訴訟の契機となった玉串料等の支出や公式参拝を違憲又は違憲の疑いがあると判断したことにつき、「この手法は、重大な憲法判断の際に、「少数意見や補足意見などが公表されることで、国民自身の判断材料を得る最高裁を経ずして確定させることの危険性」を含んでいる。すなわち、高裁自身の職務として、憲法判断を含めた判決を下すことは、付随的違憲審査制のメリットとして認められるにせよ、こと憲法判断に及ぶ揚合は、三審制の原理を踏まえ、かかる判決を不服とする当事者に、少なくとも上訴の権利を保障しておくことは当然である。かかる制度の軽視は、法令審査における終審裁判所としての最高裁の役割(81条)への配慮を欠いた裁判権の濫用にさえなりかねない。」(同書75ページ)と述べており、同様の批判は,名古屋高裁判決にも当てはまる。

ウ 高橋和之教授の見解
高橋和之教授は、「憲法判断回避の準則」(講座憲法訴訟第2巻。乙第14号証)において、いわゆる恵庭事件に関する札幌地方裁判所昭和42年3月29日判決 (判例時報476号25ページ)の判示について、「付随審査制という性格からすれば、裁判所のいうように 「絶対に必要なばあい」しか憲法判断をすべきではないというのはいい過ぎだとしても、憲法判断を後にするというのが原則的態度であることは間違いないと思われるので、逆に、憲法判断を例外的に先行させる場合には、それなりの理由が示されなくてはならない」(同書9ページ)とした上、「傍論における憲法判断は、最高裁については絶対的に許されないとは考えないが、行う母合には強固な理由が必要であろう。下級審の揚合は、その憲法判断が最終的となってしまうような形で行うことは許されないと解する。」(同書13ページ)と述べている(ここで挙げられている例は傍論での合憲判断であるが、結論を導くのに必要がないという点において、下級審における傍論での違憲判断も同様であると解される。)。

エ 百地章教授の見解
百地章教授は、「靖国神社参拝と憲法判断」(法律のひろば2004年7号57ページ。乙第15号証)において、小泉総理大臣(当時)の靖国神社への参拝に関する福岡地裁平成16年4月7日判決(判例時報1859号125ページ)が、原告らの請求を棄却しておきながら、傍論において参拝が違憲であるとの判断を示したことをもって、同判決が「ねじれ判決」であるとした上、「下級審における「傍論」、少なくとも「ねじれ判決」の形をとった傍論は、被告側の上訴権を故意に剥奪するものであるから、違法というべきである。しかも、もしこのような「控訴封じ」や「上告封じ」が横行することになれば、三審制を基礎とするわが国の違憲審査制度そのものが崩壊しかねないわけであるから、「ねじれ判決」には違憲の疑いさえある。それ故、このような「傍論」は、現行憲法上、絶対に容認できないものと解される。」(同書73ページ3段目)と述べている。

 (3) 小括
以上に述べたとおり、下級審の傍論における憲法判断については、判決における結論を導くについて論理的に必要がないばかりか、学説上も消極的な見解が多い。

付随的違憲審査制の下では、憲法判断は結論を導くためにそれをすることが必要でない限りは行わないとの準則が妥当するのであり、下級審が傍論として憲法判断を行うことは、適切とはいえない。

4 まとめ

以上のとおり、本件において憲法判断をすることは、結論を導く上で全く必要のないことであるから、憲法判断をしなかった点において、原判決の判示は正当であり、名古屋高裁判決における憲法判断は、本件において参照される必要は全くない。


第3 訴訟進行についての意見

1 本件において事実関係の確定の必要はないこと

第2の1で述べたとおり、控訴人らの自衛隊派遣等の差止めを求める訴え及び違憲確認を求める訴えは不適法であり、平和的生存権等の侵害を受けたとする国家賠償請求は主張自体失当である。そして、そのような判断は最高裁判所で確定しているといえる。

したがって、本件において、自衛隊のイラク派遣等の合憲性について前提となる事実関係を確定する必要は全くなく、そのための証拠調べが不要であることも明らかである。

2 被控訴人は事実関係について主脹・立証する予定がないこと

控訴人らは、控折理由書において、イラク特措法の違憲性及びイラクへの自衛隊の派遺等の違憲性についてるる述べているが、本件においてそのような判断が不要であることは第2の1で述べたとおり明らかである。したがって、被控訴人においてその点に関する主張・立証をする予定は全くない。

3 結論

本件については、既に十分な審理が尽くされており、更に審理すべき点は存在しないから、速やかに弁論を終結の上、本件控訴は棄却されるべきである。






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