自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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2007.03.23


名古屋訴訟第7次判決・敗訴だが画期的内容

            [1]平和的生存権の具体的権利性を一部肯定
            [2]人格権侵害の可能性肯定

2007年3月23日、名古屋地方裁判所民事第7部で言い渡された、名古屋第7次訴訟の判決は、敗訴でしたが、評価できるものだということで、判決文の一部を掲載させて頂きます。

詳しくは、イラク自衛隊派兵差し止め訴訟の会(名古屋)のHPに掲載されている弁護団声明(第7次判決報告by川口創弁護士)と判決文(いずれもpdfファイル)をお読み下さい。


(判決文より)



3 損害賠償請求について

[1] 原告は、本件派遣により戦争や武力行使をしない日本に生存する権利(平和的生存権ないし人格権)を侵害され精神的苦痛を受けたとして、被告に対し損害賠償を請求しているので、まず、平和的生存権の侵害の主張について検討する。

確かに、憲法は、法規範性を有するその前文において「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と宣言し、9条において、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使を放棄し、戦力を保持せず、国の交戦権も認めない旨規定している。

しかしながら、「平和」とは、理念ないし目的としての抽象概念であって(最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻6号385頁参照)、いまだ武力紛争が絶えず、平和で公正な安定的国際秩序が確立しているとはいえない現在の国際政治社会にあっては、平和を達成する手段、方法も特定されているものとはいえず、憲法9条の規定及び社会通念に照らしても個人の人権として平和的生存権を具体的に定義づけることは困難であり(したがって、原告が主張する戦争や武力行使のない日本に生存する権利を直ちに具体的権利と見ることは困難である。)、それ自体から直ちに独立した具体的権利を導き出せるものではないというべきである。

もっとも、平和的生存権は、すべての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であり、憲法9条は、かかる国民の平和的生存権を国の行為の側から規定しこれを保障しようというするものであり、また、憲法第三章の基本的人権の各規定の解釈においても平和的生存権の保障の趣旨が最大限に活かされるよう解釈すべきことはもちろんであって、(もとより国家の存立にかかわる国の行為についての違憲性の判断は間接民主制の統治システムが円滑に機能している限り慎重かつ謙抑になされるべきであるが)憲法9条に違反する国の行為によって個人の生命、自由が侵害されず、又侵害の危機にさらされない権利、同条に違反する戦争の遂行ないし武力の行使の目的のために個人の基本的人権が制約されない権利が、憲法上保障されているものと解すべきであり、その限度では、他の人権規定と相まって具体的権利性を有する場面がありうるというべきであるが、本件派遣は、そもそも原告に向けられたものではなく、本件派遣の事実上の影響を考慮に入れたとしても、前記判示のとおり、生命、自由をはじめとする原告の具体的権利や法律的地位に対する侵害のおそれを生じさせたものでないことは明かであるから、平和的生存権の侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない。

[2] 次に、人格権の侵害の主張について検討する。
 
なるほど、原告が本件派遣によって、強い不安感、焦燥感あるいは嫌悪感等の感情を抱いたことは認められるけれども、そうした原告の主張する精神的苦痛は、原告の個人としての特別な法的地位が侵害されたことによるものでなく、原告の平和に対する信条ないし信念に由来するもので、原告が望ましいと考える憲法解釈をもとに、憲法が保障する平和に生存する権利、自由が侵害されたという精神的苦痛を内容とするもので、その苦痛自体は、間接民主制下にあって国民の代表機関の多数意思によって決定された国家の措置、施策が自らの信条ないし信念、あるいは憲法及び法律の解釈に反することによる精神的苦痛にほかならないものであるから、こうした原告の内心の感情が害されたことをもって、人格権の侵害があったということはできないというべきである。

もっとも、憲法前文及び9条の法文並びにそれらの歴史的経緯にかんがみれば、憲法の下において、戦争のない又は武力行使をしない日本で平穏に生活する利益(かかる利益を平和的生存権と呼ぶか否かは別として)が法的保護に値すると解すべき場合がまったくないとはいえず、憲法9条に違反する国の行為によって生活の平穏が害された場合には損害賠償の対象となり得る法的利益(人格権ないし幸福追求権)の侵害があると認めることもまったく不可能なことではないというべきであるが、原告の主張する前記のような精神的苦痛の性質、内容に照らせば、本件はそのような場合にあたらないというべきである。

イラク自衛隊派兵差し止め訴訟の会(名古屋)のHPより引用させて頂きました





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