自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
ホームあゆみ会員募集リンク問い合わせ

あゆみ一覧へ


資料 2008.04.17
詳しくは自衛隊イラク派兵差止訴訟の会のHPへ

名古屋高裁 法廷で朗読された判決理由の要旨




自衛隊イラク判決理由の要旨 

1 自衛隊のイラク派遣の違憲性について

(1)  自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は、自衛のための必要最小限の武力の行使は許されること、武力の行使とは、我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうことを前提とした上で、自衛隊の海外における活動については、[1]武力行使目的による「海外派兵」は許されないが、武力行使目的でない「海外派遣」は許されること、[2]他国による武力の行使への参加に至らない協力(輸送、補給、医療等)については、当該他国による武力の行使と一体となるようなものは自らも武力の行使を行ったとの評価を受けるもので憲法上許されないが、一体とならないものは許されること、[3]他国による武力行使との一体化の有無は、[ア] 戦闘活動が行われているか又は行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係、[イ] 当該行動の具体的内容、[ウ] 他国の武力行使の任に当たる者との関係の密接性、[エ] 協力しようとする相手の活動の現況、等の諸般の事情を総合的に勘案して、個々的に判断されることを内容とするものである。

(2) そして、イラク特措法は、このような政府解釈の下、我が国がイラクにおける人道復興支援活動又は安全確保支捷活動(以下「対応措置」という。)を行うこと(1条)、対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項)、対応措置については、我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる一定の地域(非戦闘地域)において実施すること(2条3項)を規定するものと理解される。

(3) 政府においては、ここにいう「国際的な武力紛争」とは、国又は国に準ずる組織の間において生ずる一国の国内問題にとどまらない武力を用いた争いをいうものであり、戦闘行為の有無は、当該行為の実態に応じ、国際性、計画性、組織性、継続性などの観点から個別具体的に判断すべきものであること、全くの犯罪集団に対する米英軍等による実力の行使は国際法的な武力紛争における武力の行使ではないが、個別具体的な事案に即して、当該行為の主体が一定の政治的な主張を有し、国際的な紛争の当事者たり得る実力を有する相応の組織や軍事的実力を有する組織体であって、その主体の意思に基づいて破壊活動が行われていると判断されるような場合には、その行為が国に準ずる組織によるものに当たり得ること等の見解が示されている。

(4) しかるところ、認定できる事実によれば、平成15年5月になされたブッシュ大統領による主要な戦闘終結宣言の後にも、アメリカ軍を中心とする多国籍軍は、ファルージャ・バグダッド等の各都市において、多数の兵員を動員して武装勢力の掃討作戦等を繰り返し行っており、掃討作戦の標的となった各武装勢力は、海外の諸勢力からもそれぞれ援助を受け、その後ろ盾を得ながら、アメリカ軍の駐留に反対する等の一定の政治的な目的を有していることが認められ、相応の兵力を保持して組織的かつ計画的に多国籍軍に抗戦し、その結果、民間人や兵員に多数の死傷者が出ており、多国籍軍の活動は、単なる治安活動の域を超えたものとなっている。 現在のイラクでは、イラク攻撃後に生じた宗派対立に根ざす武装勢力間の抗争がある上に、各武装勢力と多国籍軍との抗争があり、これらが複雑に絡み合って泥沼化した戦争の状態になっているものということができ、また、多国籍軍と武装勢力との間のイラク国内における戦闘は、実質的には平成15年3月当初のイラク攻撃の延長であって、外国勢力である多国籍軍対イラク国内の武装勢力の国際的な戦闘であるということができる。
 
したがって、現在のイラクにおいては、多国籍軍と、国に準ずる組織と認められる武装勢力との間で、一国国内の治安問題にとどまらない武力を用いた争いが行われており、国際的な武力紛争が行われているものということができる。
 
特に、首都バグダッドは、平成19年に入ってからも、アメリカ軍がシーア派及びスンニ派の両武装勢力を標的に多数回の掃討作戦を展開し、これに武装勢力が相応の兵力をもって対抗し、双方及び一般市民に多数の犠牲者を続出させている地域であるから、まさに国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為が現に行われている地域というべきであって、イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当するものと認められる。

(5) しかるところ、航空自衛隊は、アメリカからの要請を受け、平成18年7月ころ以降、アメリカ軍等との調整の上でバグダッド空港への空輸活動を行い、現在に至るまで、C-130H輸送機3機により、週4回から5回、定期的にクウェートのアリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送していることが認められる。このような航空自衛隊の空輸活動は、主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われ、それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても、現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支壊を行っているものということができる。したがって、このような航空自衛隊の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域であるバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる。

(6) よって、現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。


2 平和的生存権について

(1) 控訴人らの主張する平和的生存権は、現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。

(2) 法規範性を有するというべき憲法前文が「平和のうちに生存する権利」を明言している上に、憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規定し、さらに、人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人権を規定していることからすれば、平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである。

(3) そして、この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される湯合があるということができる。例えば、憲法9条に違反する国の行為、すなわち戦争の遂行、武力の行使等や、戦争の準備行為等によって、個人の生命・自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には、平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして、裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合がある と解することができ、その限りでは平和的生存権に具体的権利性がある。


3 控訴人らの請求について

(1) 違憲確認請求について(関係控訴人についてのみ)
 
民事訴訟制度は、当事者間の現在の権利又は法律関係をめぐる紛争を解決することを目的とするものであるから、確認の対象は、現在の権利又は法律関係でなければならない。しかし、本件の違憲確認請求は、ある事実行為が抽象的に違法であることの確認を求めるものであって、およそ現在の権利又は法律関係に関するものということはできないから、同請求は、確認の利益を欠き、いずれも不適法というべきである。

(2) 差止請求について(関係控訴人についてのみ)

ア 民事訴訟としての適法性 

イラク特措法の諸規定からすれば、自衛隊のイラク派遣は、イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限による公権力の行使を本質的内容とするものと解され、本件の差止請求は、必然的に、防衛大臣の上記行政権の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものであるところ、このような行政権の行使に対し、私人が民事上の給付請求権を有すると解することはできないことは確立された判例であるから(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁等参照)、本件の差止請求にかかる訴えは不適法である。

イ 行政事件訴訟(抗告訴訟)としての適法性

仮に、本件の差止請求にかかる訴えが、行政事件訴訟(抗告訴訟)として提起されたものと理解した場合であっても、本件派遣は控訴人らに対して直接向けられたものではなく、本件派遣によっても、控訴人らの生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ、あるいは、現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされ、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるまでの事態が生じているとはいえず、現時点において、控訴人らの具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。したがって、控訴人らは、本件派遣にかかる防衛大臣の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、行政事件訴訟(抗告訴訟)における原告適格性が認められない。
  
よって、仮に本件の差止請求にかかる訴えが行政事件訴訟(抗告訴訟)であったとしても、不適法であることを免れない。

(3)損害賠僕請求について

関係各証拠等によれば、控訴人らは、それぞれの重い人生や経験等に裏打ちされた強い平和への信念や信条を有しているものであり、憲法9条違反を含む本件派遣によって強い精神的苦痛を被ったとして、被控訴人に対し損害賠償請求を提起しているものと認められ、そこに込められた切実な思いには、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれているということができ、決して、間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨、不快感又は挫折感等にすぎないなどと評価されるべきものではない。 しかし、本件派遣によっても、控訴人らの具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められず、控訴人らには、民事訴訟上の損害賠償請求において認められるに足りる経度の被侵害利益が未だ生じているということはできない。
 
よって、控訴人らの本件損害賠償請求は、いずれも認められない。


4 控訴人天木直人に特有の損害賠償請求について


外務公務員法等の諸規定からすれば、外交使節の最上級にある特命全権大使の職務の特殊性に鑑み、その任免は内閣及び外務大臣の裁量事項であり、専らその政治的、政策的判断に委ねられたものと解されるから、特命全権大使の免官については、内閣及び外務大臣の裁量権に著しい逸脱や濫用がない限り違法とされることはなく、控訴人天木がその意に反して特命全権大使の地位を失うのは懲戒事由が存する場合に限られるものではない。
 
しかるところ、控訴人天木は、イラク攻撃及びこれに対する日本政府の支持に反対しており、そのことから外務省からの退職勧奨を受け、無念と怒りを込めて退官願に署名押印したことが認められ、そこに至る経緯からして控訴人天木の悔しい思いは十分理解できるものの、最終的には自らの意思で退職を決断したことが認められる。
 
なお、外務省の控訴人天木に対する退職勧奨の目的がどのようなものであろうと、また、外務省が控訴人天木に対し退職勧奨をするにあたり、若返り人事の一環であるなどと明らかに虚偽の説明をしたものであろうと、控訴人天木に対する退職勧奨行為に違法性があったとは認められない。
 
以上から、控訴人天木の特命全権大使の免官に際し、違憲違法な退職強要行為があったとは認められず、控訴人天木の権利利益が侵害されたものとは認められない。


以 上 


詳しくは自衛隊イラク派兵差止訴訟の会のHPへ

資料
 ► 【転載】名古屋高裁判決文(HPより) ↓
  (1)p1_12.pdf (PDF 形式、約1.2MB) (2)p13_26.pdf(PDF 形式、約1.2MB)


このページの上に戻る