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2007年11月30日 熊本地裁
平成17年(ワ)第367号等 自衛隊イラク派兵差止等請求事件
原告 藤岡崇信 外
被告 国
2007年11月30日
熊本地方裁判所第2民事部A係 御 中
原告ら訴訟代理人弁護士板井俊介
憲法9条1項は「国際紛争を解決する手段として」は「武力の行使」を絶対的に禁止することを規定している。
外務省の海外安全ホームページには、昨日、つまり11月29日時点の最新情報として、以下のような記載がある。「イラクにおいては、2007年2月から米軍及びイラク治安部隊による武装勢力への掃討作戦が展開されています」。また、テロリストらの「声明等の中には、攻撃対象として日本に言及したものも」みられるので、イラク全土から「退避を勧告します」と書かれている。これは、要するに、イラク国内では、未だにアメリカ軍などによる戦闘行為が継続しているため、反政府組織及びテロリストによる戦闘行為による危険があることを被告自身が認めていることに他ならない。
そして、外務省関係者や国連関係者以外の空輸実績を、すべて黒塗りで消した航空自衛隊の「週間空輸実績(甲第46号証)」からもわかるように、現在、航空自衛隊は、陸上自衛隊でも外務省でも国連関係でもなく、まさにアメリカ軍を輸送する役割を果たしている。
これは、明らかに航空自衛隊がアメリカ軍と一体化した行動であって、憲法9条1項が禁止する「武力の行使」であると言わざるを得ない。
この点について、従来の政府見解は「輸送の対象物に制約があるわけではございませんが、武力の行使と一体化するような輸送協力は行い得ない、こういう考えを持っておりまして、現に戦闘が行われているような場所への武器弾薬の輸送は行い得ないのが当然」(1990年10月25日衆議院PKO特別委員会中山太郎外相答弁)であるというものであった。
しかし、現に、航空自衛隊はイラク国内で武力行使を行う米軍に対し、イラク国内に立ち入って、武器弾薬等の空輸を行っていることは明らかである。
これは、明らかな憲法9条1項違反である。
本件訴訟は、海外に武装した軍隊を派遣しない、我が国が戦後、最低限堅持してきた大原則を破り、重武装の自衛隊をイラクへ派遣したという歴史的な事態について、その違憲性と違法性を問う訴訟である。それは、単に平和主義というにとどまらず、我が国の今後の人権と司法の信頼性に関わる重大な事件である。
我が国の違憲審査権は、このような事態にでも、何ら無力な権利であることを、司法権、すなわち御庁も認めるのであろうか。司法権の役割は、まさに、今発揮されなければ、いつ発揮されるというのか。
現在の状況は、これまで積み重ねられてきた憲法上の議論を一顧だにせず、海外派兵に踏み切り、過去の憲法解釈を一切無視した形で、海外派兵の事実のみが、憲法の枠の外で一人歩きしているという状況である。それは、日本国憲法始まって以来の最大の違憲状態であり、かつ、立法府及び行政府において、それについての是正機能が一切機能していないのである。
憲法81条に定める違憲審査権が、このような、なし崩し的状態により、一歩一歩、憲法の求める社会の在り方が破壊されていくのを、事後的に憲法の予定する事実状態に修正するための制度であることは、憲法を学んだ者であれば誰もが知るところである。仮に、日本国憲法始まって以来の違憲状態においても、これが発動すらしないというのであれば、それは司法権の自殺行為であり、同時にそれは三権分立の崩壊を意味する。
司法が国民の信頼を確保するためには、このような状況においてこそ、司法権による憲法保障機能を起動させるべきである。
このような意味において、憲法保障機能を全うした近時の例として、当時内閣総理大臣であった小泉純一郎の靖国神社への参拝行為の違憲性が問われた、いわゆる靖国訴訟大阪高裁判決がある(平成17年9月30日大阪高判、平成16年(ネ)第1888号損害賠償請求控訴事件)。
すなわち、同判決は、原告を敗訴させたものの、参拝行為は憲法20条第3項が禁止する「宗教的活動」に当たるとして、明確に違憲判断をしたものである。
憲法判断回避の原則は、判例実務上、決して絶対的な原則ではなく、違憲審査制の憲法保障機能に照らし、極めて重大な問題においては、むしろ憲法判断に踏み込むことが要請されるのである。
私は、今年の6月18日、小林教授がこの法廷で言われた言葉を覚えている。小林教授は、裁判所の憲法判断について「きっと国民はそれを支持いたしますし、国民に支えられた権限行使」になると明言された。私も、本訴訟での憲法判断を支持する者として、司法権に対する国民の信頼を期待し、意見陳述を終える。
以 上