自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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資料 2006.07.05

第5準備書面

1 内戦化するイラク情勢
2 各国の対応
3 正義なき戦いに加担した日本政府の責任
4 陸上自衛隊の撤兵についての原告らの見解
5 今後日本政府がおこなうべきこと



平成17年(ワ)第367号
自衛隊イラク派遣差止等請求事件
 原  告    藤  岡  崇  信    外45名
 被  告    国                   

原告ら第5準備書面

 2006年7月5日
熊本地方裁判所
    第2民事部 御 中
原告ら訴訟代理人       
                   弁 護 士   加  藤    修
   外
本年6月20日日本政府は,陸上自衛隊をイラクから撤退する決定をした。イラクの国内状態が内戦の様相を帯び,英豪軍がイラク南部から撤退する状況になり,日本政府としてもこれ以上,陸上自衛隊をイラクに派遣しておくことは,何時戦闘状態にはいるかわからないため,英豪軍の撤退に合わせて,自衛隊の撤退を決定したものである。もはや,「自衛隊が活動しているところが非戦闘地帯である」というような小泉首相の「言葉の遊び」は通用しないほどイラクの治安情勢は悪化しているのである。

1 内戦化するイラク情勢


本年3月1日イラクの首都バグダッドを中心に爆弾テロが相次ぎ,合わせて29人が死亡した。さらに3月4日深夜から5日未明にかけて銃撃戦が起き,モスクを警備していた3人が死亡,6人が負傷した。

ブッシュ大統領がイラクに軍隊を送って約3年になり,アルカイダによるテロに対抗するということで戦闘を繰り返してきた。

ところがイラクでは最近テロではなく,宗派間の闘争に移行してきたと指摘されている。つまりスンニ派とシーア派による戦いになっており,1週間で約1000人もの犠牲者を出すような事態にもなっている。このイラクの情勢はもう内戦と言うほかない。

しかしイラク人はそのほとんどがスンニ派とシーア派であり,宗教間の争いとなった場合,イラクの軍隊でさえ一方当事者となりこの内戦を治めることはできず,内戦は泥沼化すると言わざるを得ないのである。

イラク特措法は、日本政府が勝手に自衛隊をイラクに派遣できるのではなく、相手国の政府の同意が必要であり、国連決議に従ってイラクにおいて施政を行う機関の同意が必要である。問題は、内戦の場合にその同意をする機関が存在するかどうかである。

原告らとしては、まさにこの点で自衛隊はイラクから撤兵せざるを得ないものとなったと考えている。事実、平成18年7月5日つけ熊本日日新聞第5面では、イラクのサマワ州知事がデモを誘発など失政をした責任で辞意を表明する事態となっている。これらのデモは電力や雇用不足に対する抗議デモであるが、手榴弾も使用されている。


2 各国の対応

このようにイラク情勢が悪化している中で,イラクへ軍隊を派遣している各国は撤退の速度を速めた。各国の最近の状況について報道によれば,以下のような推移をたどっている。

 [1] 日米英豪の4カ国は本年4月10日,イラク情勢に関する外務,防衛当局の事務レベル協議をロンドンで開いた。日本政府は英国の真意を見極め,英軍に連動した形でイラクに駐留する陸上自衛隊の撤収時期を判断することとしていた。

陸上自衛隊が活動するイラク南部サマワでは英軍とオーストラリア軍が治安維持を担っており,日本政府は英政府の情勢判断を注視していた。

英政府はアフガニスタン派遣部隊の増強などを控え,早期撤収の意向が強かった。「4月に撤収開始との情報もあれば,同じ日に,当面は駐留継続という英政府関係者の発言も公電で送られてくる」状態で,情報は錯綜していたが,日本政府はこの協議で直接英政府の方針を確認したい意向を有していた。

[2] 額賀福志郎防衛庁長官は5月1日午前(日本時間同日深夜)の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で,イラク南部サマワで活動する陸上自衛隊部隊について,英豪両軍と歩調を合わせて撤退させる考えを伝えた。

[3] 英豪軍の権限移譲へ

ムサンナ州知事と多国籍軍は今年3月,「治安維持権限を移譲する準備は整った」との文書を作成した。5月4日には多国籍軍司令官と知事が会談し,正統政府の発足後に権限移譲について協議することで合意した。しかしサマワでは5月13日,イスラム教シーア派の反米指導者サドル師の一派とみられる武装集団が警察を一斉襲撃する事件が起きた。

[4] ブッシュ米大統領は6月13日,バグダッドを電撃訪問し,イラクのマリキ首相と会談した。大統領のイラク訪問は2003年11月以来,2回目である。

大統領は首脳会談でマリキ首相に対イラク支援継続を表明し,マリキ首相は「我々はテロリストを打倒する」と述べて,治安の回復と復興への決意を示した。

イラク国内では,駐留米軍によるイラク民間人虐殺疑惑が明るみに出たことで,市民の間に米政府や軍に対する反発が強まっており,大統領は今回の訪問で,新首相との信頼関係構築を図ろうとしたことや英豪軍の撤退による不安を払拭しようとしたものと考えられる。

[5] 日本政府は 政府は6月20日昼,安全保障会議を開き,イラク南部サマワに駐留する陸上自衛隊の撤退を決定した。小泉純一郎首相はその後,首相官邸で記者会見し,航空自衛隊がクウェート−イラク間で行っている空輸活動の継続・拡大とともに,陸自撤退を表明した。額賀福志郎防衛庁長官は同日午後,陸自に撤退命令を出した。


3 正義なき戦いに加担した日本政府の責任


日本政府は米英軍によるイラク戦争開始直後,イラク戦争への支持を表明した。そして,その後もイラク戦争及び占領軍,多国籍軍の行為を支持し続けてきた。しかし,国連憲章が認める戦争は,同42条の安全保障理事会が認めた場合と同51条の自衛戦争のみに限定されており,米英軍によるイラク戦争が,これらの要件を具備しない国連憲章違反の戦争であることは明らかである。更に,米英軍がイラク戦争の大義名分に掲げたイラクの大量破壊兵器保有等が虚偽であることは,2003(平成15)年7月9日にラムズフェルト国防長官が「開戦前に,イラクの大量破壊兵器について新たな証拠は持っていなかった」と認め,2004(平成16)年1月にイラクによる大量破壊兵器開発の証拠の捜査にあたっていたアメリカ調査団のデビット・ケイ団長は「イラクに大量破壊兵器はなかった」と明言した。それにもかかわらず,日本政府は,今回の自衛隊撤退まで,人道復興支援という名の下で,イラクに駐留を続けて,米英のイラク戦争を支持し続けたのである。

憲法9条に違反して,違法なイラク戦争に加担し続けた日本政府の責任は重大であり,今回の撤退の決定は遅すぎるものと言わざるを得ない。


4 陸上自衛隊の撤兵についての原告らの見解

政府の自衛隊撤兵を受けて、「イラク派平違憲訴訟熊本弁護団」は、平成18年6月20日付けで、別紙のとおりの「陸上自衛隊イラク派遣部隊の撤退発表に関する声明」を公表した。

自衛隊のイラクからの撤兵は、被告が主張するように、自衛隊を派遣して戦闘地域でないサマーワで復興支援活動をさせたというものではなく、英軍すらも駐留できないほどサマーワが戦闘地域であり、かつ復興支援活動もほとんど出来ていない中での撤兵である。

わが国には、憲法9条があり、武力で国際紛争を解決することは厳に禁じられているところである。そうした下で被告があえて自衛隊をイラクに派遣はしたものの戦闘状態となれば、直ちに憲法9条に違反する事態となることは明らかである。今回の自衛隊の撤兵はまさに憲法9条に反する事態が現実に起こりかねない下での撤兵であり、憲法9条があることが戦争を起こさせない力であることを実証したものである。


5 今後日本政府がおこなうべきこと

今後日本政府がおこなうべきことは,充分な批判的な検討も行わず,米英のイラク戦争を支持し,自衛隊をイラクに派遣したことを反省し,二度とこのような愚挙を行わないことである。

今回は,これまでたまたま一発の銃弾も撃たず,且つ戦闘による負傷者も一人も出さなかったが,戦闘が行われる地帯への出動は,その危険性をもっているのであり,一発の銃声から自衛隊が戦闘状態に入る危険性があったことを日本政府は充分認識すべきである。

また,イラクにおいては劣化ウラン弾による健康被害が指摘されているところであり,米英の帰還兵にも,劣化ウラン弾の影響と思われる症状が出ている。

イラクでは1991年の湾岸戦争で米英軍が劣化ウラン弾という兵器を使用し,2003年の米英諸国軍によって一方的に始められたイラク戦争においても,米英軍は劣化ウラン弾を大量に使用したといわれている。

劣化ウラン弾は,核兵器を作る際に発生した劣化ウランや,原子力発電,あるいは原子炉を搭載した原子力空母,原子力潜水艦などから発生した使用済み核燃料廃棄物に含まれる劣化ウランが大量に累積し,その処理に困ったアメリカなどが,砲弾に転用したものであり,劣化ウランが極めて硬く,重い物質であることを利用して,戦車などの厚い装甲板を撃ちぬくために使用されている。

劣化ウランの主体はウラン238で,アルファ線という放射線を出し,劣化ウラン弾が戦車などの厚い鉄板を撃ちぬく際に,高温となり燃焼して霧状の二酸化ウランや三酸化ウランの微粒子となり飛散することになるが,この放射性ウランを含む微粒子を吸入したり,微粒子で汚染された飲食物を摂取することにより,放射性ウランを含む微粒子を体内に取り込み,体の中から被爆する内部被爆を受けるのである。

内部被爆の場合,放出されたアルファ線は周囲の細胞に集中して高密度の被爆を与え,細胞の染色体に損傷を生じ,その結果,がんや白血病を発病する原因となるのである。劣化ウランの主体であるウラン238の半減期は約45億年と非常に長いので,微粒子の飛散した地域は極めて長期にわたり汚染され続け,イラクの国民はもちろん,駐留している兵士も被爆することが考えられるのである。

湾岸戦争で新たに加わった環境汚染は劣化ウラン弾であり,これが急増しているがんなどの健康障害の原因であることが推定されている。

このような地域に派遣された自衛官にも劣化ウラン弾の影響による各種健康被害が発生する可能性があり,今後自衛官には継続した健康調査を行うべきであり,また戦闘地域に派遣されたストレスが心理面に影響を与えた可能性があるので審理カウンセラーを充実させ,問題が生じないように最善をつくすべきである。それが憲法に違反して危険な地域に自衛官を派遣した国の責任である。

この点で、2006年7月15日発売の「週刊現代」は29頁で「『イラク派兵』自衛隊員『戦死者(自殺)5人』とPTSDに囚われた“帰還兵たち“ 」(井上佳武)としてスクープ記事を掲載している。この記事の内容が真実なのかどうかはこれから明らかになっていくが、少なくとも私たちが指摘したことがまさに歴史的に確認される段階へとはいったのである。
  

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