2007.01.19
平成17年(ワ)第367号 自衛隊イラク派遣差止等請求事件 原 告 藤 岡 崇 信 外45名 被 告 国 |
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原告ら第9準備書面
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2007(平成19)年1月19日 |
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熊本地方裁判所 第2民事部 御 中 |
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原告ら訴訟代理人 弁護士 加 藤 修 外 |
頭書事件につき、原告らは、以下のとおり、弁論を準備する。 |
第1 航空自衛隊のイラクにおける活動実態 1 黒塗りの週間空輸実績報告書航空自衛隊の航空支援集団司令官名義の統合幕僚長宛「週間空輸実績報告書」(甲第46号証)によれば、航空自衛隊は、平成18年7月17日以降、そのほとんどが、「陸上自衛隊」でもなく、「国連関係者」でもなく、「日本国政府関係者」でもない、人員と貨物を大量に空輸していることが一目瞭然である。 すなわち、同報告書によれば、空輸の対象は、「陸自」、「国連」及び政府関係者の空輸が3日のみ記載されているものの、それ以外は、空輸する人員や貨物の全てが不開示とされ、「黒塗り」で消されている。 (1) 陸上自衛隊の空輸 たとえば、平成18年7月17日から同月23日の一週間の間での航空自衛隊の運行日数は「2日」であるところ、そのうち、1つは、7月17日、「アリ」空港から「アリ アル・サレム」空港に「陸上自衛隊」の関係者や物資を空輸したことは明らかであるが、もう一つの空輸は、すべて黒塗りで消されている。すなわち、不開示とされている。 なお、平成18年7月17日から同年11月12日までの間、「陸上自衛隊」が空輸の対象となったのは、7月17日の1回のみである。 (2) 外務省関係者の空輸 次に、空輸実績の中には、平成18年8月3日、日本国政府の外務大臣である麻生太郎を含む「外務省」関係者が、「アリ アル・サレム」空港から、どこかの空港を経由して、「バグダッド」空港に入り、同日、その者らと思われる者が、「バグダッド」空港から「アリ アル・サレム」空港まで移動した際の空輸も記載されている。 しかし、平成18年7月17日から同年11月12日までの間、「外務省」が空輸の対象となったのは、8月3日のみである。 (3) 国連関係者の空輸 また、空輸実績の中には、平成18年9月6日、「国連」関係者が「アリ アル・サレム」空港から「バグダッド」空港経由で「エルビル」空港に入り、同日、その者らと思われる者が、「エルビル」空港から「バグダッド」空港経由で「アリ アル・サレム」空港に移動した際の空輸も記録されている。 しかし、平成18年7月17日から同年11月12日までの間、「国連」関係者が空輸の対象になったのは、9月6日の一日のみである。 (4) それ以外について 平成18年7月17日から同年11月12日までの間、航空自衛隊が現実に運航した日数は、全部で64日であるが、そのうち、「陸上自衛隊」「外務省」及び「国連」関係者を空輸したのは、僅か3日であり、それ以外の61日は、それ以外に所属する人員や貨物を空輸していることが明らかである。 2 不開示の理由同報告書を開示した防衛庁は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条3号に該当することを理由に、黒塗り部分の不開示を決定した。 具体的には、[1]「当該部隊の任務運航の傾向が明らかとなり、支援活動における運用要領が推察され、防衛庁・自衛隊の任務の効果的な遂行に支障が生じ、ひいては我が国の安全を害するおそれがあること」及び[2]「他国部隊等の同行が把握又は推察され、関係諸国との信頼関係を損なうおそれがあること」である。 3 航空自衛隊が空輸をしている人と物それでは、上記「陸上自衛隊」「外務省」及び「国連」関係者以外に、航空自衛隊は、61日間も費やして、いったい何を空輸したのか。 仮に「陸上自衛隊」や「外務省」関係者、あるいは、「国連」関係者の空輸であれば、平成18年7月17日、同年8月3日や同年9月6日の記載のとおり、既に、その「所属」が公開されているのであるから、その「所属」を黒塗り(不開示)にする理由はない。 したがって、61日に及ぶ空輸実績の不開示部分は、いずれも「陸上自衛隊」「外務省」及び「国連」関係者以外の者であることは明らかである。 4 「他国部隊」すなわち米軍の輸送に使用されたこと上記2でも記載したとおり、防衛庁による「不開示(黒塗り)」の理由の一つは、@「当該部隊」すなわち、航空自衛隊の「任務の効果的な遂行に支障を生ずる」場合である。 しかし、我が国の陸上自衛隊は、日本政府による平成18年6月20日の撤兵決定以後、速やかに撤収を完了し、現在はイラク共和国内には駐留していない。 また、平成18年8月3日の外務大臣麻生太郎のイラク訪問以外に、「外務省」等の日本政府機関が、イラク共和国内を訪問した事実はない。 そうすると、それ以外には我が国の関係機関がイラク国内に空輸された事実はないのであるから、不開示の理由は上記@に基づくものではなく、むしろ、A「他国部隊等の同行が把握又は推察され、関係諸国との信頼関係を損なうおそれがあること」に求められる(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条3号)。 では、我が国が「信頼関係を損なうおそれがある」「他国部隊」とは何か。 それは、まさにアメリカ合衆国軍隊をおいて他には存在しない。 同報告書を素直に読む限り、航空自衛隊は、平成18年7月17日から同年11月12日までの間、64日にも及ぶ運航日数のうち、大部分にあたる61日を、米軍の空輸に費やしているのである。 5 これを裏付ける日本政府の対応このような事実は、最近の日本政府の対応からも裏付けることができる。 (1)失敗を認めたブッシュ政権の増派政策 すなわち、ブッシュ大統領は、2007(平成19)年1月11日、イラク国内での内線状況等、治安の悪化の「責任は私にある」と認めた上で、イラクへの2万1500名の派兵増員を決定し、2007(平成19)年11月までに、すべての治安権限をイラク軍に移譲する目標を示した(甲第3号証の428)。 また、これを受けて現「イラク政府は、武装装備掃討作戦を強化する」方針であるという(甲第3号証の428)。 すなわち、イラク政策が誤っていたことを認めたブッシュ政権は、世界的に高まるイラク早期撤兵の世論に応じなければならない一方で、現在、内戦状態にあり、まさに「戦闘地域」であるイラク国内の劣悪な治安状況の打開を行うには、現状の派兵人員では解決不可能であることを認めたのである。 したがって、米軍は、今後、2007年11月の撤兵に向けて、増派された人員を使用して、掃討作戦を一層強化することになる。 (2)日本政府の対応 このような米国政府の政策発表を受け、日本政府は、即座に、本年7月末日で期限が切れるイラク特措法の「延長措置の本格検討に入った」。 平成15年8月1日に施行されたイラク特措法は、その有効期限が4年間とされているため(イラク特措法附則第2条)、2007年7月31日でその効力を失う。 しかし、2007年11月までイラク国内で掃討作戦を実行する米軍を後方支援するには、少なくとも、4ヶ月間は、その有効期間を延長しなければならないため、同法の有効期間の延長につき、米国政府から日本政府に要請があったものと考えるのが自然である。 (3)まとめ このように、イラク周辺で活動する航空自衛隊は、まさに、米軍によるイラク軍の掃討作戦支援に加担していることは間違いない事実である。 被告国は、このような違憲、違法状態をなし崩し的に実現していることは明白である。 以 上 |
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