自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
ホームあゆみ会員募集リンク問い合わせ


資料

第2準備書面 

 

bP 第1 はじめに
bQ 第2 イラク特措法における自衛隊イラクサマーワ(戦闘地域)派遣は違法である。
bR 第3 イラク特措法第2条第3項第1号の要件を充足していないものであって,違法である。
bS 第4 自衛隊は人道支援活動は終わった。.
bT 第5 政府は安全配慮義務(法第9条9に違反している

  ※第2準備書面を提出しました!も参照して下さい。





平成17年(ワ)第367号
自衛隊イラク派兵差止等請求事件
原   告   藤 岡 崇 信外45名
                        被   告   国

原告ら第2準備書面

2005年10月7日
熊本地方裁判所
  第2民事部 御 中
 原告ら訴訟代理人
弁 護 士  加  藤    修
  原告らは,頭書事件につき,以下のとおり,弁論を準備する。

第1 はじめに
本準備書面は,自衛隊のイラク派遣の根拠である「イラクにおける人道支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(以下「イラク特措法」という)の各要件事実を明らかにするとともに,自衛隊のイラク派遣が,憲法を論ずるまでもなく,イラク特措法の各要件を充たさず,派遣行為がイラク特措法に違反し違法であることを主張するものである。

かつて米英軍のイラクへの侵攻は,9月11日テロを起こしたアルカイダを支援し,大量破壊兵器を保有するサダム・フセイン政権を打倒することは「大義」とするもとで行われた。

しかし,アルカイダとフセインは関係なかったとされ,大量破壊兵器も見つかっていない。にもかかわらず,アメリカを始めとする多国籍軍はイラクの占領を続け,イラクでの戦争を継続している。まさに,大義は失われたのにアメリカの若者は無意味な戦死,戦傷を余儀なくされている。

2005年9月21日,アメリカのギャラップ社が発表した世論調査によると,「イラクへの派兵で米国は過ちを犯した」と考える人が59%,「米軍のイラクからの全面または一部撤退を支持」する人が63%となっている。

そして,アメリカでは,イラク戦争で息子を亡くしたシンディ・シーハンさんも含めた「兵士を今すぐ帰せ」とのイラク撤退を求める声が国中に広がった。

こうした中で,サマーワで自衛隊を護衛していたオランダを始め多くの国々がイラクから撤退をし,さらにイギリスやオーストラリアすらも撤退を検討するという事態となった。

にもかかわらず,平和憲法を持つわが国はイラク派兵を強行している。しかし,これは派兵するよりも撤兵することが難しい国際紛争の介入の現実を直視せず,自衛隊員の命や身体を軽んじ,ひいてはわが国を再び戦争の惨禍に巻き込みかねない無謀な判断である。

こうした行政の暴走を,国民の権利侵害を前提に憲法と法の名の下に抑制するのが司法の役割である。

以上,原告らは,以下の理由から,いわゆるイラク特措法による自衛隊のイラク派兵は違法であり,直ちに撤兵すべきと求めている。

このページの上に戻る
  



第2

 
イラク特措法における自衛隊イラクサマーワ(戦闘地域)派遣は違法である。 
 
イラクへの自衛隊派遣の要件としては,後述のように,自衛隊派遣地域(イラク南部サマーワ)が「非戦闘地域」であることが必要となる。

しかしながら,日本政府において,その判断が十分になされた形跡は無いのである。
 
以下,本要件について検討し,イラクの現状に鑑みて,サマーワが非戦闘地域であるとは到底認め得ないことを論ずる。
  1.  イラク特措法2条3項は,自衛隊の派遣対象地域の要件について「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域と規定している。
     すなわち,@現在戦闘行為が行なわれていないA自衛隊が活動する期間全てに渡って戦闘行為が行なわれる可能性がない,という2つの要件を満たす「非戦闘地域」に限定して自衛隊派遣を許しているのである。
  2.  では,「戦闘行為」とはいかなる行為を指すのか。条文上は2条3項柱書において「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」と規定されている。この規定からすれば,一般社会通念上は,サマーワを含むイラク全体において,イラク戦争以来現在に至るまで続いている武装勢力等における自衛隊を含む外国軍への攻撃や無差別テロは「戦闘行為」にあたるものと感じられるのではなかろうか。
     この「戦闘行為」については,正規軍同士の戦争ないし武力紛争において行なわれる殺傷・破壊行為のみならず,テロ組織による破壊活動もこれに該当しうるということは日本政府が公式に認めている。
     すなわち,2004(平成16)年の第159回通常国会における中川正春衆議院議員提出の「質問第8号 イラクへの自衛隊派遣に関する質問主意書」に対して,内閣総理大臣が「お尋ねの『9・11テロ』は,(中略)『国際的な武力紛争』に当たり得ると考えている」と答弁しているのである(甲5の1,同2)。
     同質問主意書においては,イラク国内でのテロが「国際的な武力紛争」にあたるか(すなわち「戦闘行為」に該当しうるか)についても質問されているが,この点についての政府答弁は「イラクに残る親フセイン政権の残党」又はこれらの者の活動の実態は様々であり,これらが『国家又は国家に準ずる組織』又は『国際的な武力紛争』に該当するか否かについては,個別具体的にその実態に応じて判断せざるを得ないため,確定的にお答えすることは困難である」と曖昧に答えているのみである。
     しかしながら,上記答弁は,イラクにおけるテロが「戦闘行為」にあたることを否定するものではなく,攻撃主体やその対象及びその状況等次第では「戦闘行為」に該当する可能性を認めているものである。
  3.  なお,小泉純一郎首相は,2003(平成15)年7月23日の衆議院国家基本政策委員会合同審査会において,当時の民主党菅直人代表のイラクにおける非戦闘地域はどこを指すのかという旨の質問に対し「どこが非戦闘地域でどこが戦闘地域かと今この私に聞かれたって,わかるわけないじゃないですか」という無責任な答弁をしている(甲6)。のみならず,平成16年11月10日の同審査会において民主党岡田克也代表(当時)が,これに先立つ「サマーワは非戦闘地域である」旨の首相答弁に関してその判断根拠を質問したのに対して「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域なんです」と答え(甲7),自衛隊派遣が前提にありきで判断過程自体を放棄していることを露呈したのである。
  4.  しかしながら,イラク全土,そして自衛隊派遣地域であるサマーワやサマーワを含むイラク南部の現状を冷静に分析すると,サマーワは戦闘地域に他ならないことが明らかとなる。
    すなわち,2005年4月28日のイラク移行政府発足後も,以下のとおり,イラク全土,そしてサマーワで,武装組織と米軍との戦闘や,テロ行為が無数に起こっているのである。
4月27日  イラク国民議会の女性議員ラミア・アベドハドリがバグダッド北東部の自宅で,武装グループと見られる何者かに暗殺された。 イラク国民議会の女性議員ラミア・アベドハドリがバグダッド北東部の自宅で,武装グループと見られる何者かに暗殺された。
28日 イラク移行政府発足
29日  バグダッド及びバグダッド近郊で,イラク治安部隊や警察署を狙い,計9台の自動車爆弾によるテロが相次ぎ,24人が死亡,約90人が負傷した。
29日〜
5月1日
 イラク各地で反米武装勢力による攻撃が相次ぎ,3日間で少なくとも74人が死亡した。30日にはバグダッドで5件,北部モスルで6件の自動車爆弾攻撃があり,イラク人少なくとも17人と米兵1人が死亡し,1日には,バグダッド付近で武装勢力の銃撃により警官5人が射殺された。
5月2日  バグダッドで,治安部隊の車列や商店街の一般人を狙った自動車爆弾テロが3件連続して起こり,少なくとも8人が死亡した。
3日  イラク中部ラマディで戦闘が発生し14人が死亡した。
4日  イラク北部クルド人自治区で,警官の募集窓口に集まっていた志願者を狙った自爆テロが発生し,60人以上が死亡した。
6日  バグダッド南方スウェイラの市場で自動車爆弾を使った自爆テロがあり,少なくとも14人が死亡(ロイターは22人と報道),43人が負傷した。また,北部ティクリートの軍検問所付近でも警官を狙ったと見られる自爆攻撃があり,少なくとも8人が死亡,7人が負傷した。さらに,同日,バグダッド郊外のゴミ廃棄場で,イラク人と見られる射殺体が12体が見つかった。
 7日  バグダッド中心部で自動車爆弾によるテロがあり,少なくともイラク人13人と外国人4人の計17人が死亡,30人以上が負傷した。また,同日,中東の衛星テレビ放送アルジャジーラは,イラクでオーストラリア人男性ダグラス・ウッドを拉致した武装勢力が,72時間以内にオーストラリア軍をイラクから撤退させるよう要求するビデオを放映した。
8日  同日までに,イラク戦争開始以来の米軍死者が1600人を超えた。
9日  イラク駐留米軍が,イラク西部アンバル州で武装勢力に対する大規模な掃討作戦を実施,24時間で75人を殺害した。また,同日,バグダッド南部で自動車テロが発生し,3人が死亡,9人が負傷した。
 なお,この日,イラク西部ヒートで,日本人斎藤昭彦を拉致したと,イラクの武装勢力「アンサール・スンナ軍」が犯行声明を出した。斎藤は,前年12月より警備会社ハート・セキュリティー社に籍を置き,イラクで米国の車列警護等の業務についていたところ,同勢力の襲撃に遭い,銃撃を受け,瀕死の状態で連れ去られたものであった。
10日  イラク中西部アンバル州のラジャ・ナワフ知事が,4人のボディガードとともに武装勢力に拉致された。
11日  バグダッド,ティクリート等で連続爆弾テロがあり,少なくとも71人が死亡した。
 また,同日,イラク西部で武装勢力掃討作戦に参加していた米海兵隊員が地雷に触れ,2人が死亡,14人が負傷した。
12日  バグダッド東部で自動車爆弾テロがあり少なくとも12人が死亡,56人が負傷した。
13日  イラク各地で爆弾テロが起き7人が死亡。前年11月よりクルド人自治区を除いたイラク全土に出されている非常事態宣言が30日間延長された。
14日  バグダッドで自動車爆弾テロ,5人が死亡。
また,米軍はイラク中西部アンバル州で7日から14日にかけ大規模な掃討作戦を実施,武装勢力125人以上を殺害した。
15日  バグダッド東北部でシーア派と見られる13人の射殺体が見つかったほか,15日から翌16日にかけ,約50体のイラク人の惨殺体が見つかった。
また,アンサール・スンナ軍が,インターネット上で,斎藤昭彦らを襲撃したときの映像を公表した。
17日  バグダッドでシーア派の聖職者が車で移動中に射殺されたほか,同日までに,スンニ派聖職者2人の遺体も発見された。
24日  イラク北部タルアファルで連続爆弾テロが起き20人が死亡,20人が負傷したのを含め,バグダッド等イラク各地でテロが起き,少なくとも49人が死亡した。
25日 イラク中部ハディーサでの掃討作戦で,米軍が武装勢力少なくとも10人を殺害した。
29日  イラク治安部隊4万人以上と米軍約1万人が,バグダッドで武装勢力の大規模掃討作戦を開始した。
30日  イラク中部の2箇所で自爆テロが起き,27人が死亡,100人以上が負傷した。
6月1日  バグダッド郊外の検問所で自爆テロがあり,民間人15人が負傷した。
 2日  イラク北部と中部で計5件のテロが起き,ディヤラ州評議会副議長を含む少なくとも34人が死亡,数十人が負傷した。
3日  同日付の米紙ワシントン・ポストは,過去1年半の間でイラク民間人1万2000人がテロや戦闘行為により死亡したと報じた。
11日  バグダッド所在のイラク内務省特殊部隊本部内で自爆テロが起き,少なくとも3人が死亡したほか,バグダッド市内のスロバキア大使館付近でも自爆テロが起き,数人が負傷した。その他,同日には各地で武装勢力の攻撃があり,10人以上が死亡した。
13日  イラク西部で米軍が大規模な掃討作戦を実施し,武装勢力40人以上を殺害した。
15日  イラク中部バクバ近郊のイラク軍基地で自爆テロがあり,少なくとも26人が死亡,26人が負傷した。また,バグダッド東部でもイラク警察の車列に対して自爆テロが起き少なくとも10人が死亡するなど,各地で武装勢力の攻撃が相次いだ。
18日  イラク西部カイムにおける米軍の掃討作戦で,17日未明から18日にかけ,武装勢力50人以上が殺害された。
このほか,同日,バグダッドで自動車爆弾テロが起き2人が死亡するなど,各地で武装勢力の攻撃が相次いだ。
20日  イラク北部のクルド人自治州と首都バグダッドで,警察署などを狙った自爆攻撃やロケット砲を使った攻撃が相次ぎ,合わせて少なくとも24人が死亡,120人以上が負傷した。また,中部ファルージャ近郊では米軍が武装勢力15人を殺害した。
23日  サマーワの陸上自衛隊宿営地近くで,走行中の陸上自衛隊車両4両の車列から約1.5ないし2メートルの至近距離に埋められていた爆発物2個のうち1つが爆発し,うち1両のフロントガラスにヒビが入った。
26日  イラク北部モスルで警察署等を狙った3件の自爆テロがおきたほか,バグダッド等でも自爆テロが相次ぎ,計47人が死亡した。
27日  バグダッド近郊で米軍ヘリが墜落し,米兵2人が死亡した。また,同日までに,サマーワで陸上自衛隊が修復した道路に立てられた看板の日の丸が黒く塗りつぶされているのが見つかった。
28日  サマーワで失業者のデモ隊と警察官が衝突,投石するデモ隊に警察官が発砲するなどし,12人が負傷した。この際,爆弾を身につけた男が拘束された。後に重傷者のうち2人が死亡した。
30日  サマーワ中心部のムサンナ州評議会庁舎付近で複数回の砲撃が起きた。
7月4日  バグダッド近郊で米軍とイラク軍による掃討作戦が行なわれ,武装勢力の少なくとも100人が拘束された。また,バグダッドで自動車爆弾テロが起き2人が死亡したほか,北部モスルでは州知事やクルド民主党幹部4人が射殺された。
7日   「イラク聖戦アルカイダ組織」を名乗る武装勢力が,イラクで拉致したエジプトのシェリフ次期大使を殺害したとウェブサイト上で発表した。
10日  バグダッド等各地で爆弾テロが相次ぎ,計33人が死亡した。
13日  バグダッドで13日,子供らに菓子を与えていた米兵を狙った自動車爆弾テロがあり,子供10人以上を含む27人が死亡し,20人以上が負傷したほか,バグダッドの別の場所でも爆弾テロにより1人が死亡,1人が負傷した。
15日  バグダッド市内各地で7件の自爆テロが相次ぎ,20人以上が死亡したほか,ヨルダン国境近くでも米兵2人が死亡した。
16日  イラク南部アマラで路上に仕掛けられた爆弾が英軍車両の近くで爆発し,英兵3人が死亡,2人が負傷した。
17日  イラク中部ムサイブで燃料輸送車を狙った自爆テロが起き,98人が死亡,約100人が負傷したほか,バグダッドでも4件の爆弾テロが相次ぎ,19人が死亡した。
19日  イラク各地で武装勢力による襲撃事件が相次ぎ,少なくとも37人が死亡した。
22日  バグダッドや中部サマラなどで武装勢力の攻撃が相次ぎ,16人が死亡した。
24日  サマーワで日本友好協会のアンマル・ヒデル前会長が経営する商店が爆破された。
29日  サマーワで,日本政府が経済支援している職業訓練の作業所が,2発の爆弾で爆破された。また,北部ラビアでは,イラク軍の採用施設で自爆テロが起き52人が死亡した。
30日  イラク南部バスラで英総領事館の車列の近くで爆弾が爆発し,2人が死亡した。同日,バグダッド中心部の警察検問所でも自爆テロが起き少なくとも7人が死亡したほか,バグダッド市内の2箇所に仕掛けられた爆弾が相次いで爆発し米兵5人が死亡した。
31日  バグダッド南方で自動車爆弾が爆発し7人が死亡,12人が負傷した。
8月1日  バグダッド南西部で,銃殺されたり首を切り落とされた20人の遺体が見つかった。また,バグダッド東部では,内務省幹部の車が武装勢力に襲われ,幹部1人が死亡,警備担当者2人が負傷した。
3日  イラク西部ハディーサ近郊で米軍車両が爆弾攻撃を受け米兵ら15人が死亡したほか,南部バスラでは米国人フリージャーナリストが射殺体で見つかった。
4日  サマーワ近郊で市街地に電力を供給する送電塔近くに爆弾が仕掛けられているのが発見された。また同日深夜,サマーワ中心部の商店で小規模の爆発が起きた。
7日  サマーワで大規模デモが起き一部が暴徒化して警官隊と衝突,1人死亡。また,サマーワの州政府庁舎近くでロケット弾による爆発も起きた。
8日  サマーワで,地元テレビ局と地元紙に対し,陸上自衛隊の活動を報道しないよう警告し,従わねば社員を殺害する旨の脅迫状が送りつけられていたことが明らかになった。また,サマーワでパトロール中の警官が武装勢力の銃撃を受け1人が死亡した。
10日  サマーワで地元ムサンナ州評議会のアブドラ・シェヌン議員宅に銃撃があり市民2人が負傷した。
11日  サマーワで,憲法承認国民投票の準備を進める選挙管理委員会事務所に男4人が訪れ,イラク人警官やイラク軍への警備依頼をやめなければ同事務所を爆弾攻撃すると脅迫した。
15日  北部モスルで米軍部隊が銃撃を受け米兵1人が死亡した。
17日  バグダッド中心部で車3台による連続爆弾テロが起き,少なくとも46人が死亡,76人が負傷した。また,北部キルクークではイラク軍車両が武装勢力の攻撃を受け6人が死亡した。
18日  イラク中部サマラで爆弾攻撃により米兵4人が死亡した。
24日  イラク中部ナジャフでイスラム教シーア派の内紛と見られる衝突があり少なくとも4人が死亡したほか,25日未明にかけ,サマーワなど南部数か所で衝突が続いた。
25日  バグダッド南方で男性36人の射殺体が見つかったほか,バグダッド北方では飲食店に武装集団が押し入り民間人6人が死亡した。また,北部キルクーク近郊では,移行政府のタラバニ大統領の所有する車が襲われ護衛2人が死亡した。
26日  サマーワで反米指導者サドル師の支持者ら約2000人が大規模デモを行なった。
29日  米軍がバグダッドでロイターテレビのイラク人職員を射殺した。
31日  バグダッド北部でイスラム教シーア派の聖地カドミア・モスクに向かっていた多数の巡礼者が,「テロリストが自爆しようとしている」との叫び声でパニックに陥り,965人が死亡,475人が負傷した。
9月3日  イラク北部キルクークとバイジとの間で,石油パイプラインが爆破され,日量150万バレルの輸出が停止する事態となった。
7日  南部バスラで米国の民間警備業者の車列付近に仕掛けられた爆弾が爆発し4人が死亡した。
8日  南部バスラで爆弾テロが続発し,16人が死亡,20人が負傷した。
10日  イラク北部タルアファルで米軍とイラク軍が大規模な掃討作戦を実施し,10日までに武装勢力141人を殺害した。
14日  バグダッド北部で自動車爆弾テロが起き114人が死亡,156人が負傷した。この事件を含めバグダッド市内及び近郊でテロや攻撃が10件相次ぎ,合計で153人が死亡した。
15日  バグダッドで警察を狙った車爆弾による自爆攻撃と路上に仕掛けられた爆弾による攻撃が相次ぎ,警察官31人が死亡,多数が負傷した。また,この他にも,南部イスカンダリヤで武装勢力が公務員宅を銃撃し5人が死亡するなど,同日から16日にかけ,爆弾や銃撃で少なくとも16人が死亡した。
17日  サマーワでパトロール中の英軍部隊が武装勢力に銃撃され,英兵1人が負傷した。また,バグダッド東部郊外で自動車爆弾テロが起き,少なくとも30人が死亡,38人が負傷した。
19日  イラク南部バスラで英兵2人とイラク警官との間で銃撃戦が生じてイラク人2人が死亡する事件が起き,英兵2人が刑務所に連行された後,英軍部隊が複数の戦車で刑務所に突入し,イラク当局の拘置下にあった英軍兵士2名を奪還した。
24日  サマーワで治安維持にあたっている英軍・オーストラリア軍がいずれも来年5月にサマーワから撤退する意向を日本政府に打診していることが明らかになった。
25日  バグダッドで警察の車列に対し自動車爆弾テロが起き警官13人が死亡したほか,シーア派反米指導者サドル師の民兵組織と米軍との間で交戦があり10人が死亡,中部ヒッラーの市場では自爆テロが起き5人が死亡,36人が負傷した。さらに,同日夜にはサマーワ中心部の州庁舎近くに迫撃弾が撃ち込まれ,その直後,付近の警察施設を数人の武装集団が襲撃し,警官と銃撃戦となった。
27日  中部バクバで自爆テロが起き,12人が死亡,31人が負傷した。
28日  北部タルアファルでイラク軍採用希望者の列で女性が自爆テロを起こし,少なくとも7人が死亡,38人が負傷したほか,中部ナジャフのサドル師の警護員宅で爆発が起き,2人が死亡,5人が負傷した。また,サマーワで,旧フセイン政権時代の支配政党旧バース党の党員宅が爆破された。
30日  中部バラドの繁華街で自爆テロが3件発生し,子供と女性多数を含む少なくとも85人が死亡,100人以上が負傷した。また,中部ラマディでは爆弾攻撃で米兵5人が死亡した。
10月1日  イラク移行政府のジャビル内相の兄弟であるジャバル氏が,バグダッド市内を車で走行中に武装勢力拉致された。
  1.  以上のとおり列挙した事実を総合すると,激しい戦闘行為が日常となっているイラク北部・中部のみならず,サマーワを含むイラク南部においても,少なくとも,現に激しいテロや,米英軍・イラク軍・イラク警官等を狙った攻撃が続発している状態であり,戦闘行為が現に行なわれいると評価しても誇張ではなく,少なくとも,「自衛隊の駐留期間を通じて戦闘行為が行われることがない」とは到底認め得ないと言うべきである。
    特に来年5月にサマーワの警備に当たっている英軍及びオーストラリア軍が撤退すれば,サマーワの治安はさらに悪化することが確実であり,大規模なテロや自衛隊への攻撃が頻発する恐れも強く,しかもその場合には自衛隊が直接攻撃に晒されることになり,自衛隊が戦闘行為の当事者となる事態すら予想されるのである。
  2.  以上,イラク特措法における自衛隊派遣地域の要件とイラクの現状につき論じたが,「戦闘地域」か「非戦闘地域」かの判断は,本来的に観念の問題である。すなわち,判断者の判断基準によって,いかなる状態を戦闘地域と呼ぶのかが左右されるのである。したがって,政治的状況や判断者の価値観・主観によって,同一の状況を捉えても判断が分かれうる。このような観点からすれば,ある地域が戦闘地域であるか否かの判断に際しては,その判断がもたらす結果の重要性に鑑み,出来る限り冷静かつ客観的な判断がなされるよう務めなければならない。
     しかるに,既に述べたとおり,自衛隊派遣地域であるサマーワを含むイラクの現状はテロや武装勢力の襲撃,米英軍及びイラク軍と武装勢力との交戦が日常化しているような状態であり,これを非戦闘地域であると判断するには相応の事実の裏付けをもとにした慎重かつ冷静な検討が必要になるべきところ,政府はそのような検討過程を踏まえず,乱暴に「サマーワは非戦闘地域である」と強弁するのみである。
     このような現状では,もはや政府に戦闘地域か否かの判断を任せることは出来ない。現在この判断が出来るのはわが国の裁判所をおいて他に無いのである。
    御庁も含むわが国の裁判所におかれては,必要あらば現地(イラクのサマーワ)に赴き検証を行うなどの方策を講じ,自衛隊派遣地域であるサマーワが戦闘地域なのか非戦闘地域なのか十分に判断を尽くされたい。


このページの上に戻る
   



第3

自衛隊のイラク派遣は,イラク特措法第2条第3項第1号の要件を充足していないものであって,違法である

大野功統防衛庁長官2005年10月3日,陸上自衛隊のイラク南部サマーワ派遣部隊交代のため,第8師団(司令部・熊本市八景水谷)の泉一成師団長に対し,第8次イラク復興支援群の編成命令を出した。

この第8次イラク派遣群は次のとおりである。

 「現在活動中の第7次群に代わり,道路,公共施設の補修や医療支援などに当たる。 同師団司令部は第43普通科連隊(宮崎県都城市)の幹部を群長に,今月半ばまでに部隊編成を完了。派遣命令を受けて下旬から3回に分け,順次出発させる。派遣期間は約3カ月間。

既に訓練を積んでいる約5百人の要員候補のうち,県内隊員は2百人以上。サマーワの宿営地や活動中の隊員を警護する警備中隊に第42普通科連隊(北熊本駐屯地)を,隊員の現地生活支援には第8後方支援連隊(同)を軸に選抜している。自衛隊熊本病院(熊本駐屯地)などの医師や看護師隊員も派遣する」

 「イラク復興支援特別措置法に基づく基本計画で定める12月14日の期限を派遣中に迎えるが,政府は期間延長の方針を固めている。細田博之官房長官は3日の記者会見で,派遣延長について『これからの政治判断で決まってくる』と強調。今回の編成命令については『準備が途切れると,いざという時に対応できない』と述べた」(熊本日日新聞2004年10月4日)。
 しかしながら,イラク特措法に基づく自衛隊のイラク派遣は次のとおり違法である。
イラク特措法の要件

(1)「施政を行う機関の同意」
イラクにおける人道支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(イラク特措法)は,自衛隊の派遣に当たって同法第2条で基本原則を定めている。

その上で,同法第2条第1項で「この法律に基づく人道支援活動又は安全確保支援活動」を「対応措置」と規定して,同条第3項第1号で対応措置の取られる地域を「外国の領域」とした上で,(当該対応措置が行われることについては当該外国の同意がある場合に限る)と限定している。

そして,イラクにあっては,「国際連合安全保障理事会決議第1483号その他政令で定める国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従ってイラクにおいて施政を行う機関の同意によることが出来る」(下線は原告)とされている。
 
なお,イラク特措法施行令第1条は「法第2条第3項第1号の政令で定める決議は国際連合安全保障理事会決議第1483号及び1511号とする」と定めている。
 
以上は,当然のことを定めた条項である。自衛隊法に従い設置されたわが国の自衛隊が海外に派遣されるには憲法およびこれに基づく法律の定めに基づくことは当然である。しかしながら,自衛隊が海外すなわち日本の主権の範囲外であるばかりか,外国政府の支配する領域に派遣されるのであれば,当該領域を支配する外国政府の同意がなければ,自衛隊の実質が国際的には軍隊である以上武力の行使による侵略と見做されることも当然である。したがって,自衛隊の外国領土への派遣にあたって当該外国政府の同意を要することは当然である。
 
ところで,イラクにあっては米英軍によってイラクを支配していたフセイン政権が崩壊させられているという事実に基づき,当該外国政府に代わる機関の同意を要することは当然である。問題はその同意をする機関は,日本国憲法の立場からすれば国際連合憲章およびこれに基づく国連の判断に正当性の根拠を持つものでなければならないことは明らかである。
 
そうでなければ,他国を侵略した強盗国家と一緒になってその強盗国家の同意の下に火事場泥棒を働くことに等しいからである。
 
要するに,原告らは,そもそも自衛隊が憲法9条に反する軍隊であり,自衛隊の海外派兵,さらには外国領土たるイラクの派遣そのものも憲法9条に反すると考えるものであるが,今回の自衛隊のイラク派兵はイラク特措法にも反するもので違法であり,以下その理由を述べる。
(2) 平成16年6月28日以前は「イラク特別代表」の同意が要件
イラク特措法は,平成15年8月1日に法律第137号として公布の日に施行された(同法附則第1条)。
 
イラク特措法施行令(平成15年制定。平成16年改正)第1条は,法第2条第3項第1号の政令で定める決議は,国際連合安全保障理事会決議(安保理決議)第1483号及び1511号とすると規定する。
 
但し,安保理決議1511号が採択されたのは,2003(平成15)年10月16日である。そこで,同決議はイラク派遣の当初の判断に関しては同法2条3項1号の根拠とはならない。そこで,以下は同決議1483号を検討する。
 
ちなみに,同決議1511号はイラクへの権限委譲,国連の役割の明確化等についても言及している。
安保理決議1483号(2003年5月22日)は前文で「安全保障理事会は・・・国際連合憲章第7章(平和に対する脅威,平和の破壊及び侵略行為に対する行動)下に行動して」第1項,第2項,第3項において加盟国に対しイラクに対する支援を訴えている。そして,第8項は「事務総長に対し,イラク特別代表を任命するよう要請する」とした上で,同第9項は「国際的に承認された代表政府が,イラク国民により樹立され当局の責任を引き受けるまでの間,イラク国民が,当局の支援及び代表の協力を得て,自ら運営する移行行政機関としてのイラク暫定行政機構を形成することを支援する」と規定する。
 
上記のとおり,安保理決議1483号は,・・・イラク国民により樹立され当局の責任を引き受けるまでの間,イラク国民が「当局の支援及び代表の協力」を得て・・・とある。ここでは,「当局」と「代表」とあるが,国連としては「代表」すなわち「イラク特別代表」が当然安全保障理事会の決議を執行する上で必要不可欠の機関であり,人道復興支援が国連の要請に基づくものである以上,イラク特措法の同意とは少なくとも「イラク特別代表」の同意と解するのが当然の解釈である。

(3) 平成16年6月28日以降は自ら運営する移行行政機関の同意が要件
イラクにおいては2004年6月28日午前10時26分(現地時間),それまで暫定的な施政を行ってきた連合暫定施政当局(CPA)から,イラク暫定政府に対し,統治権限の委譲が行われたとされている。
 
安保理決議第1483号第9項は「国際的に承認された代表政府が,イラク国民により樹立され当局の責任を引き受けるまでの間,イラク国民が,当局の支援及び代表の協力を得て,自ら運営する移行行政機関としてのイラク暫定行政機構を形成することを支援する」と規定する。ここでいう「イラク暫定行政機構」とは自ら運営する行政機関であることが要件である。しかしながら,米軍の指揮下にある多国籍軍の支配下にあるイラク暫定移行政府は,上記の「自ら運営する移行行政機関としてのイラク暫定行政機構」ではない。
 
そこで,被告国がイラク特措法第2条第3項第1号の同意があるとするのであれば,現在のイラク暫定政府が国連安保理決議1483号にいう「イラク暫定行政機構」であることを主張・立証すべきである。 
 
以上,少なくとも,国連がイラク暫定政府をイラク暫定行政機構とすることを前提に,わが国がイラクで「対応措置」を取るにはイラク特措法上はイラク暫定政府の同意が必要となる。
 
仮に,イラク暫定政府の同意でよいとしても,後に述べるように政府の見解のどこにも,イラク暫定政府の同意を得るとか,得たとの記載はない。

(4)同意要件のまとめ
以上,イラク特措法第2条第3項第1号の自衛隊のイラクにおける「対応措置」を取るための法律上の根拠は,安保理決議1483号によれば,@当初は安保理の要請とイラク特別代表の同意が,A次に自ら運営する意向行政機関としての暫定行政機構が,B最後に国際的に承認された代表政府の同意ということになる。
  
しかしながら,その同意は以下に述べるようにいずれも存在しない。
自衛隊のイラク派遣につき,イラク特措法第2条第3項第1号の同意はない。

(1)イラク特措法第2条第3項第1号の同意はない。
自衛隊の海外派遣問題は,日本国憲法第9条で戦争の放棄が規定されている以上,法律の解釈は,厳格になされる必要がある。特に,外国への自衛隊の派遣は,その国の主権を無視すれば侵略行為であり,主権の存する外国政府の同意が法律上必要不可欠なのは当然である。
 
イラクのように,その国に主権の存する政府が他国の戦争行為により崩壊し,これに変わる政府が樹立されていない場合,自衛隊の派遣が主権の存する政府を戦争行為により崩壊させた国家や国家連合の同意によることは出来ない。なんらの根拠もなしに,そのようなことを認めることは他国に対する戦争行為による侵略を認めることになるからである。
 
そこで,少なくとも,イラク特措法第2条第3項第1号の規定からすると, 国連の認めた正当な機関の同意が必要となってくる。
 
次に,イラクが正当な代表政府に移行するまでの間は,暫定移行政府が同意をすることになるであろうが,その同意は自衛隊を派遣する日本政府に直接なされることは当然である。なぜならば,イラク特措法第2条第3項第1号は明確に「日本の自衛隊が対応措置を行うこと」についての関係機関の同意であり,日本政府が勝手に「同意」があったと看做しうるかどうかという問題ではないからである。
 
したがって,被告国が,イラクへの自衛隊派遣がイラク特措法により合法だと主張するのであれば,同法の要件を充足している事実を主張・立証する責任がある。
 
以下は,原告において,被告国がイラク特措法第2条第3項第1号の要件を充足していないことを主張するものであり,被告国においてこれを充足しているというのであれば,同意に関する具体的事実を主張し,これを裏付ける同法所定の関係機関の同意書面を提出されたい。本件は,国際関係に関することであり,被告国が関係機関の同意があったと勝手に思い込むということでは,法律上の要件を欠くことになることは明白である。そこで,以下検討する。
(2)平成16年6月28日以前に「イラク特別代表」の同意は無い。
平成15年8月2日から同16年6月28日までに,「イラク特別代表」の同意は無い。この点は,被告国も争いの無いところであろう。したがって,被告国は,今回の自衛隊派遣について,この点についての認否反論を証拠に基づいて具体的にすべきである。
 
なお,被告国が,安保理決議1483号の「当局」の同意があったとするのであれば,少なくとも国連安全保障理事会において,国連においては安保理決議1483号の「当局」の同意を持って日本政府のいうイラク特措法第2条第3項第1号の同意に当たるとの具体的主張・立証をすべきである。その際,日本国憲法,国連憲章,安保理決議第1483号,イラク特措法との関係を論理的に明確に主張すべきである。
 
ところで,外務省のホーム頁において「各国・地域情勢」の「中東」「イラク再編に向けた動き」において次のように述べ,「当局」とはCPAとしている。
「 1 CPAによる施政
(1) 2003年5月22日に採択された安保理決議1438(1483の誤記;原告代理人)は,安保占領軍としての米英の特別の権限を認識し,『当局』(米英の統合された司令部)は国際的に承認された代表政府がイラク国民により樹立され,『当局』の責務を引き継ぐまでの間,権限を行使するとした。同決議は『当局』に対し,安全で安定した状態での回復及びイラク国民が自らの政治的将来を自由に決定できる状態の創出に向けて努力することを含め,領土の実効的な施政を通じてイラク国民の福祉を増進することを要請した。
(2) 現在,連合暫定施政当局(CPA:Coalition Provisional Authority)が同決議に言及されている『当局』を構成する機関として活動している。CPAのブレマー行政官は,イラク統治評議会の設立後すぐに,イラクの新憲法を起草するプロセスを開始する,新憲法が承認された時点でイラクの新政府がイラクの初めての民主的,自由且つ公正な選挙により選ばれることになると発言している。
   2 政治プロセスの進展
  中略
(3) 2003年11月15日,イラク統治評議会とCPAは,イラク人への統治権限の委譲を早期に行うことを目的にして,以下の日程の政治プロセスに合意した。24日,統治評議会はこれに関する書簡を安保理議長に提出した。
    中略
2004年6月末まで 移行行政機構選出・承認(CPA解体,統治評議会任務終了)
2005年3月15日まで憲法会議選挙
(基本法で日程設定)恒久憲法の制定  」
以上からも明らかなように,被告国は「当局」すなわちCPAの同意があればイラク特措法第2条第3項第1号の同意があるかのような見解であるようである。いずれにせよ,被告国が「当局」すなわちCPAが同意をする機関というのであれば,その旨具体的に日本国憲法,国連憲章,安保理決議,イラク特措法との関係を前提に,主張・立証すべきである。ちなみに,当局の同意がいつどのような形で行われたかも具体的に明らかにされたい。
 
しかしながら,どうであろうと,イラク特措法第2条3項第1号の同意については安保理決議の関係で「イラク特別代表」しかいない。これは,CPAが米英軍の私的な機関という性格からしても明らかである。
 
ちなみに,米英軍が2003年3月20日にイラクを攻撃開始し,その直後の4月10日前後には,すでに米復興人道支援室(ORHA)が占領行政を開始した。ORHAは,米国防総省の支持の下で組織され,その代表者は元米軍司令官ジェイ・ガーナーであった。この組織は米国の占領軍そのものである。このORHAによる占領行政は,少なくともこの時点では国連安保理決議に基づかない違法なものである。
 
なお,ORHAは,2003年6月には連合暫定施政当局(CPA)に合併された。CPAは同年5月1日ころまでには存在している。米政府は米英軍がCPAを設立したというだけで,これだけでは国際法上の正当性は認められない。
(3) 平成16年6月28日以降も自ら運営する移行政府機関の同意は無い。
原告らは,現在の暫定移行政府がイラク特措法第2条第3項第1号の「同意」をすることが出来る要件を満たしていないと考えている。しかし,被告国の以下の見解でも,暫定移行政府は多国籍軍に対し同意をしたのであり,自衛隊を派遣している被告国に同意をしたことはない。
 
しかも,政府は,自衛隊は多国籍軍の指揮下にはないといっているものであり,暫定移行政府が自衛隊のイラク派遣に同意したと擬制する根拠も全くないものでる
 
すなわち,政府の「イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について」(平成16年6月28日閣議了解)によると,次のとおりである。
「 イラクにおいては,平成16年6月28日に,完全な主権が回復されたことに伴い,『イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について』(平成16年6月18日閣議了解)中『6月30日』とあるのは,『6月28日』と了解する。」
ところで,平成16年6月18日閣議了解は,次のとおりである。
「 平成16年6月8日,国際連合安全保障理事会において決議1546号が全会一致で採択された。この決議にあるとおり,イラクにおいては,同月30日をもって占領が終了し,完全な主権が回復されることになる。
       中略
今般,イラク暫定政府が国際社会に対し,多国籍軍の駐留を含めた支援を要請していることを踏まえたこの決議が全会一致で採択されたことを受け,イラクの復興と安定が我が国自身の安全と反映にとっても重要であるとの認識に立ち,イラクへの主権回復後も,自衛隊が引き続きこのような活動を継続することとする。
 
その際,この新たな決議において,これまで我が国の自衛隊が行ってきたような人道復興支援活動が多国籍軍の任務に含まれることが明らかになったこと等を踏まえ,政府として十分な検討を行った上で,自衛隊は多国籍軍の中で今後とも活動を継続する。
 
6月30日以降,自衛隊は,多国籍軍の中で,統合された司令部の下にあって,同司令部との間で連絡調整を行う。しかしながら,同司令部の指揮下に入るわけではない。自衛隊は引き続き,我が国の主体的な判断の下に,我が国の指揮に従い,イラク人道復興支援特措法及びその基本計画に基づき,イラク暫定政府に歓迎される形で人道復興支援等を行うものであり,この点については,今般の安保理決議の提案国であり,多国籍軍及びその統合された司令部の主要な構成国である米,英両政府との間で了解に達している。
 以下略                  」
 
原告らは,イラク特措法の要件は厳格に解釈されるべきであり,少なくともわが国の行政府の主観的判断で解釈されるべきでないものである。
以上,自衛隊のイラク派遣は,イラク特措法第2条第3項第1号の要件を充足していない。自衛隊のイラク派兵はイラク特措法上違法である。
 
すなわち,イラク暫定政府は,その実体から見ても自ら運営する移行行政機関とは言えず,そのイラク暫定政府の同意すらないものである。被告国は,イラク暫定政府が多国籍軍にした治安維持の要請をもって,多国籍軍の指揮下にないとする自衛隊も人道復興支援活動をすると言明し,このことは米英両政府も了解していると居直っている。しかし,これはイラク暫定政府の同意ではなく,米英両政府の了解でしかなく,イラク特措法第2条第3項第1号の要件を満たしていないことは明らかである。


このページの上に戻る
   


第4

自衛隊は人道支援活動は終わった
はじめに
イラク特措法による自衛隊のイラク派遣の適法性の要件は,自衛隊がイラクで人道復興支援活動を行うことである。従って,人道復興支援活動が終了した以上,自衛隊はイラクに駐留する根拠はなくなるし,また今後自衛隊をイラクへ派遣する根拠もない。それにもかかわらず自衛隊がイラクに駐留を続けること,新たにイラクに自衛隊を派遣するはイラク特措法に違反し,違法となるものである。それにもかかわらず,何故に政府はイラクへの自衛隊派遣の継続を強行しようとしているのであろうか?
 
以下,自衛隊の人道復興支援活動の内容及びその活動が終了したことを明らかにし,自衛隊の派遣がイラク特措法に違反し,違法であることを明らかにする。
イラク特措法の要件
イラク特措法は「人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うこととし,もってイラクの国家の再建を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的と」しており(第1条),予定される業務としては,人道復興支援活動と安全確保支援活動である。
 
人道復興支援活動としては,
(1) 医療
(2) 被災民の帰還の援助,被災民に対する食糧,衣料,医薬品その他の生活関 連物資の配布または被災民の収容施設の設置 
(3) 被災民の生活若しくはイラクの復興を支援する上で必要な施設若しくは設備の復旧若しくは整備又はイラク特別事態によって汚染その他の被害を受けた自然環境の復旧
(4) 行政事務に関する助言又は指導
(5) 人道的精神に基づいて被災民を救援し若しくはイラク特別事態によって生じた被害を復旧するため,又はイラクの復興を支援するために我が国が実施する輸送,保管,通信,建設,修理若しくは整備,補給又は消毒とされ,
安全確保支援活動としては,国際連合加盟国が行うイラク国内における安全及び安定を回復する活動を支援するために我が国が実施する医療,輸送,保管,通信,建設,修理若しくは整備,補給又は消毒をするとなっている。
 
要するに,自衛隊の活動はイラク特措法により,制限されているのであり,イラク特措法により認められた範囲の活動しかできないことになるのである。
自衛隊の行う活動の内容
(1) 平成16年度防衛白書による自衛隊の活動
 
自衛隊が平成16年5月31日まで行った活動について,平成16年度防衛白書は以下のような説明をしている。
ア 医療活動
陸上自衛隊の医官がサマーワ総合病院における症例検討会などへ参加し,現地医師に対し,診断方法,治療方針について指導・助言を行っている。また,本年(平成16年のこと)3月14日以降,サマーワ市の母子病院において,我が国から供与された医療器材の使用方法と最新の治療技術を指導助言している。
イ 学校などの公共施設の復旧・整備活動
本年(平成16年のこと)3月25日以降,ムサンナー県ダラージ村の中学校の補修を行い,電気配線や扉などの修繕に当たっている。また,本年3月30日以降,同地で測量を実施し,ワルカ道路補修作業を開始した。
ウ 給水活動
本年(平成16年のこと)3月26日以降,サマーワ宿営地においてムサンナー県水道局の給水車への配水作業を行っており,これまでおよそ4840トン(本年5月31日現在)に及ぶ浄水を供給し,住民から感謝されている。
エ 輸送活動
本年(平成16年のこと)3月3日以降,医療器材など我が国からの人道復興関連物資と陸自の補給物資を空自C−130H輸送機と陸自車輌により,関係国・関係機関などの物資・人員を空自C−130H輸送機により輸送している。C−130H輸送機による実績は,輸送回数36回,輸送物資重量96.5トンである(本年5月31日現在)。
オ その他
 ユーフラテス川氾濫対処措置
 現地の人々との交流
 報道関係者の輸送
(2) 平成17年度防衛白書による自衛隊の活動

自衛隊が平成17年5月31日まで行った活動について,平成17年度防衛白書は以下のような説明をしている。
ア 医療活動
昨年2月19日以降,陸自派遣部隊の医官がサマーワ総合病院など4つの病院において,現地人医師などに対し,診断方法,治療方針について指導・助言や,外務省所管のODAの枠組みによりわが国から供与された医療器材の使用方法の指導・助言を行っている。さらに,ムサンナー県の救急車搭乗員に対する技術指導,医薬品倉庫における医薬品の管理に関する技術指導などの医療支援も行っている。
 
陸自派遣部隊は,これら活動を通じてムサンナー県の医療技術の向上に寄与している。
イ 給水活動
昨年3月26日以降,サマーワ宿営地において運河の水を浄水し,外務省所管のODAの枠組みでわが国がムサンナー県水道局に供与した給水車への配水作業を行っていたが,ODAにより宿営地近傍に設置した浄水設備が本年2月4日に稼働を開始したことに伴い,同月5日以降,陸自派遣部隊による給水活動は行っていない。なお,同月4日までの配水量は合計約53,500トンである。給水活動は,ムサンナー県の住民の生活に直結する重要な支援であり,現地の人々から高い評価を得た。また,陸自派遣部隊は,安全確保支援活動としてオランダ軍に約1,170トンの給水も行った。
 
活動に当たっては,予想以上に厳しい寒暖の差,砂嵐などといった過酷な環境下でも活動を継続できるように天幕で浄水セットを防護したり,地盤を強化するなど隊員の懸命の努力で,大きな支障なく活動を行っことができた。
 ウ 学校などの公共施設の復旧・整備活動
昨年3月25日以降,ムサンナー県に所在する学校において,壁,床,電気配線などの補修を行っており,本年5月末現在,15か所が終了し,引き続き11か所の学校補修を行っている。また,昨年3月30日以降,現地住民が使用する生活道路の整地,舗装などを行っており,本年5月末現在,17か所が終了し,引き続き2か所の道路補修を行っている。道路の補修に当たっては,陸自派遣部隊が補修した道路にODAの枠組みでアスファルト舗装を行うなど,外務省と連携した活動を行っている。
 
さらに,各地の診療所施設(PHC)の補修,サマーワの養護施設の補修,低所得者用住居の補修,ワルカ浄水場の補修などムサンナー県に所在する学校道路以外の公共施設の補修も行っており本年5月末現在17か所が終了し,引き続き17か所のその他の公共施設の補修を行っている。  
これら公共施設は,現地住民の生活に直結しているものであり,現地住民の生活環境の改善に寄与している。
 
また,これら活動を現地業者により行うことで,現地における雇用創出の一助となっている。これまでの1日当たりの雇用者数は最大で1,000名強である。
 
これら活動に当たっては,現地の人々の要望に的確に応えられるよう,派遣部隊は地元の人々との密接な調整を行うことにも大きな努力を払っている。
エ 輸送活動
陸自派遣部隊は,空自派遣部隊と連携し,医療器材などわが国からの人道復興関運物資などのタリル飛行場からサマーワまでの陸上輸送を行った。また,陸自派遣部隊は,安全確保支援活動として韓国軍兵士をクウェート国内のアリ・アル・サレム空軍基地からクウェート国際空港まで車両輸送を行った。
オ その他
 現地の人々との交流
陸自派遣部隊が活動を行うに当たっては地元住民との良好な関係が重要である。このため,隊員は,折り紙を教えたり,音楽演奏を行うなど現地の人々との交流にも努力している。これに対し,現地の子供たちが演劇を催し,絵を贈ってくれるなどの交流が進んでいる。
 
これらの交流を通じて,現地住民との良好な関係が築かれており,サマーワにおいて現地住民による陸自派遣部隊を支援するデモが行われた。また,活動間や移動間に,現地住民たちが陸自派遣部隊の隊員に対して笑顔で手を振るのが日常の光景となっている。
英国軍,オーストラリア軍の展開
本年2月,ムサンナー県の治安維持の任務を有していたオランダ軍が撤収を開始した。オランダ軍からは,陸自部隊の派遣前に行われた調査チームに対する支援,部隊の展開に対する支援,活動開始後の各種支援など様々な支援を受けてきた。
 
オランダ軍に替わり,同年3月7日に英国軍がその任務を引き継いだが,同年5月よりオーストラリア軍がサマーワに派遣され,現在英国軍とオーストラリア軍派遣部隊が活動している。陸自派遣部隊が活動を行う際には,英国軍及びオーストラリア軍と連携することが重要である。このため,現地部隊においては,相互に連絡員を派遣しているほか,定期的な意見交換・文化交流やその他の交流を図るなど,密接に協力しつつ活動を行っている。
イラクにおける自衛隊の人道復興支援活動は終わった。
イラクにおける人道復興支援活動の基本となるのは,イラクの人々が復興のため真に何を求めているかを考えなければならない。イラクにおいては自衛隊がイラクに入る前から「カラバ(電気),マイ(水),アマル(仕事)」と訴えられてきた。
 
また,2003年10月下旬にイラク南部のサマーワを訪れた日本政府調査団に対してサマーワ市評議会が渡した15項目の「要望書」を朝日新聞が入手したと報じられた。「要望書」の15項目とは,1)浄水設備と給水システムの修理・建設,2)排水網の整備,3)市中心部の小学校10校の再建・修理を最優先に,郊外の15校の再建・修理,4)小学校,特に郊外校に給食施設の整備,5)スクリーンなど視聴覚機材,6)MRI,7)胆石などを取り除くための医療機器,8)日本企業が80年代に建てた総合病院の建て替えと設備の更新,9)小児・産婦人科病院に最新の医療機器,10)救貧院,孤児院の建設,11)幼稚園,小学校の通園・通学バス,12)サマーワ,ルマイサなどムタンナ州の市評議会に公用車,13)小型のゴミ収集車,14)高齢者,障害者施設の建設,15)小型ショベルカーである。
 
これらは戦争被害に対して自衛隊など軍隊によってしかできない人道復興支援活動としての位置付けよりも,ODA(政府開発援助)予算に基づく日本のNGOなど民間団体・企業の開発協力,または現地イラク人の雇用創出による市民自身の手による建設・整備が望ましいものばかりである。
 
そして,現地イラクの要望が上記のようなものであったが,自衛隊がイラクにおける活動の大きな柱の一つが給水であったことは間違いない事実である。
 
ところが平成17年度の防衛白書にも記載されているように,ODAにより宿営地近傍に設置した浄水設備が平成17年2月4日に稼働を開始したことに伴い,同月5日以降,陸自派遣部隊による給水活動は一切行っていないのである。従って,人道復興支援活動の大きな柱の一つがなくなったことになる。
 
また,公共施設の復旧・整備活動について言えば,自衛隊が発注して地元のイラク人業者が行う作業となっているが,そのような作業はそもそも自衛隊が発注しなくとも最初からイラク人だけでできる作業であり,また雇用される労働者にしてもその場しのぎの日雇い労働に過ぎない。雇用の創出と言っても極めて場当たり的なもので,イラク人が望むところとあまりにもほど遠い現状なのである。
 
このような現状において,イラクにおいて自衛隊が人道復興支援活動として行う大きな活動はすでに終了したと評価されるのである。
 
いま自衛隊が行い,行おうとしている活動は何か。イラクの人々が求める活動ができず,しかも各国がイラクからの撤退を検討しているこの時期に,自衛隊をイラクに派遣することはもはや人道復興支援活動とは言えない。要するに,今,イラクで起こっている現実は,軍隊である自衛隊が他国の軍隊に護られながら,民間や非軍事的機関が本来やるべき事を,その主要部分が終わっていないにもかかわらず,他国の軍隊が治安悪化を理由に撤退を検討しているにもかかわらず,居直っているということである。その意味で,現時点でのイラク派兵は,自衛隊員の生命をもてあそぶに等しい。自衛隊員に対する戦地での活動経験,実践演習を目的として,次の自衛隊の海外派遣に備えた実績作りでしかない。
 
したがって,今後の自衛隊のイラク派遣はイラク特措法の要件を満たさないし,また駐留する理由がなくなったのですみやかに撤退すべきなのである。

  

このページの上に戻る
  



第5

政府は安全配慮義務(法第9条)に違反している
 はじめに
自衛隊をイラクに派遣するに際し,その自衛隊員の生命・身体の安全を確保することは当然必要なはずである。また,その安全の確保は,派兵期間のみのものであれば足るというものではなく,将来にわたっても確保されなければならない。
(1) イラク特措法は,その第9条において
 「内閣総理大臣及び防衛庁長官は,対応措置の実施に当たっては,その円滑かつ効果的な推進に努めるとともに,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊等の安全の確保に配慮しなければならない。」と規定する。同規定は,自衛隊のイラク派兵が,あくまで日本国単独の発案によるものではなく,イラク戦争の当事者国家であるアメリカを始めとする多国籍軍と一体をなしての行動であり,かつ,その活動の場が日本国外である特殊性を考慮した上で,イラクに派遣された全ての我が国国民の生命・身体が,いわば常時危険にさらされることから,敢えて,内閣総理大臣及び防衛庁長官に対し,「イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊」の他,全ての派遣職員について,安全を確保する義務を定めたものである。「等」という文言は,今回の派兵行為に携わる全ての日本国民を対象にするべきことを示すものである。
 
そもそも,日本政府は,憲法13条により全ての日本国民に対し,その生命身体の安全を確保する義務を負っているものであるが,同条は,イラク特措法による自衛隊のイラク派兵が,自衛隊のイラク派兵が,あくまで日本国単独の発案によるものではなく,イラク戦争の当事者国家であるアメリカを始めとする多国籍軍と一体をなしての行動であり,かつ,その活動の場が日本国外であり,一般に派兵された職員の生命身体への危険性が高いという特殊性を考慮したため,敢えて,同条により確認的に,内閣総理大臣及び防衛庁長官に対し,安全配慮義務を規定したものである。
(2) 同条による安全義務
同条により,内閣総理大臣及び防衛庁長官は,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊のイラクでの活動に際し,それらの生命・身体につき,その作業時はもちろん,将来にわたっても安全な状況で作業を行わせなければならない義務を負う。
 
したがって,内閣総理大臣及び防衛庁長官は,自衛隊員等の生命・身体に危険が及ぶ可能性のある地域に派遣してはならないことは当然であるが,イラク国内において,兵器等の使用により,その場に止まること自体が明らかに生命・身体に危険を及ぼす場合には,速やかに自衛隊員等をイラクから撤退させる義務を負うことになる。
2   イラクにおける武器使用
(1) 様々な危険な兵器の使用
イラク戦争において,アメリカ及びイギリスをはじめとする軍隊は,クラスター爆弾,サーモバリック爆弾,バンカーバスターと呼ばれる地下壕破壊爆弾を始め,様々な危険な兵器を使用してきたが,その中でも,とりわけ,あまりの人体への影響の強さから,その危険性についての指摘が国内的にも国際的にも厳しく,人道的観点からも全世界的に問題視されてきたのが,いわゆる劣化ウラン弾である。
(2) 米英軍等による劣化ウラン弾の使用
 ア 米軍による使用の発表
2003年3月21日に始まったイラク攻撃において,米英軍は各地の戦闘にて劣化ウラン兵器を使用したが,このうち,米軍による劣化ウラン兵器使用の事実は,同年3月26日の記者会見にてブルックス准将が「劣化ウラン弾を使用した」と自ら認めたことで明らかである。
 
米国防次官補佐官・保健担当のマイケル・キルパトリックは2004年3月6日にマサチューセッツ工科大の討論会で「陸軍は戦車,装甲車から24トン弱,空軍はA−10攻撃機から103トン弱の劣化ウラン弾を使った」と述べた。これらを合わると115トンの金属ウランに相当するものである。
イ その他による劣化ウラン弾使用の発表
このほか,イギリス国防省も1.9トン分の劣化ウラン兵器の使用を認めている。オランダ国防大臣も,日本の陸上自衛隊が駐留するサマーワにおいて劣化ウラン弾が使用された事実を認めている。
サマーワにおいて劣化ウラン兵器が使用された事実

日本の自衛隊が駐留しているのはイラク南部のサマーワである。劣化ウラン弾は,以下に述べるとおり,その駐留地であるサマーワにおいても使用されたことが明らかである。
(1) オランダ軍がサマーワで劣化ウラン弾を発見した事実
2003年12月27日,オランダ国防省は,「イラク南部のアル・ムサン州に駐留中のオランダ軍が12月10日に劣化ウラン弾の30ミリ砲弾を発見した」と発表した。国際社会問題レビュー(Review of International Social Questions)のスタッフのマーテン・「ヴァンデンバークによると,30ミリ砲弾は,イラクでは,アメリカ空軍のアパッチヘリコプターとA−10ジェット機「イボイノシシ」によってのみ用いられてきているものである。これら航空機は,「イラクの自由」作戦において,サマーワへの空襲に参加したことが知られている。従って,ヴァンデンバークは,「この地域で,同様の砲弾がもっと多く見出される可能性が極めて高い」と見なしている。
(2) オランダ国内での情報操作・反発
この時点でサマーワを含むムサンナ州に1100人の部隊を展開していたオランダでは,イラク派兵に当たり,劣化ウラン弾が兵士の健康に悪影響を及ぼすおそれがあるとして,議会で問題化した経緯がある。
 
また,オランダの軍要員労働組合連合は,この出来事について懸念を表明している。「先週,国防省の担当者と話をしたが,彼等は今回の出来事について何も言及しなかった」と連合議長のクレイアンは語った。別の労働組合VBMのメンバーは,情報共有に関する国防省のこれまでの合意を挙げつつ,「こうしたことは,人々から隠してはならないことだ」と述べた。さらに別の労働組合AFMPのスポークスマンは,明らかに国防省は情報共有に関して,またもや「だんまり戦術」で逃げようとしている」と感想を述べた。
劣化ウラン弾について
(1) 劣化ウラン弾とは
劣化ウラン弾は,徹甲弾(armor-piercing round)として,分厚い戦車の表面を覆う鉄板を貫き穴を開けて激しく燃え上がり,内部の搭乗員と機能の破壊を目的とする砲弾である。
 
通常の砲弾においては,内部に火薬(炸薬)が詰められ,標的に命中した際に砲弾内部の火薬が爆発することにより破壊を行う。
 
しかし,劣化ウラン弾は,内部に火薬は搭載されておらず,その材質である劣化ウランの重量が鉄鋼の2.4倍もあるため,鉄鋼弾と同じ重量であれば相対的に空気抵抗が少なくなり,同時に射程距離は長くなって,高速で標的に激突し,戦車等を覆う鉄板に鉄鋼弾の2倍以上の穴を開ける兵器である。
 
この劣化ウラン弾の材質であるウランは,空気中で熱せられれば激しく燃え,また粉末状になれば熱せられなくとも自然発火するという性質を持っているため,標的に命中する際の衝撃と発熱により激しく燃焼するのである。直撃を受けた人間は,その炎で焼かれ遺体は真っ黒に焼け焦げる。
 
つまり,劣化ウラン弾は,鉄鋼弾であると同時に焼夷弾(incendiary bomb or fire-bomb)としての性質をもつものである。
 
ウランが燃焼して微粉末になると,空気中など至る所に散布されてしまい,呼吸や水・食物の摂取を通じて,体内にも侵入することになるのである。
(2) 劣化ウランの性質
劣化ウランとは
ウラン鉱山から採掘した天然ウランには,核分裂を起こすウラン235が0.72%しか含まれておらず,そのほとんど(99.2746%)は核分裂を起こさないウラン238であり,残りの0.0054%がウラン234である。そのため,原子力発電所や核爆弾で使用できるようにするためには,核分裂を起こすウラン235の割合を増加させる作業である「濃縮」が必要になる。この濃縮過程で大量に生ずる残存物が劣化ウランであり,放射性廃棄物なのである。「劣化」という名称からは,害が少ない印象を受けるが,放射線量は天然ウランの60%に相当し,放射線の95%をα線として放出する。α線は透過力が弱く,空気中で数センチしか飛ばず,紙1枚でも遮断できる。したがって,直接人体に接しなければ影響は少ないのであるが,小さな粒子として体内に入ると極めて深刻な体内被曝を引き起こす。
 
また放射線による毒性だけでなく,重金属毒性も併せ持つ極めて危険な物質である。そして,その半減期は45億年であり,永遠に放射線を出し続けると言える。
劣化ウラン兵器の特性
劣化ウランが最も大規模に利用されているのが軍事兵器であり,既に述べたように,主に貫通能力を高めるために砲弾に搭載される貫通体として,また防御力を高めるための戦車の装甲として利用されている。このウラニウム兵器には主に次の利点があるとされる。
  1.  金属ウランは,銀白色の金属光沢のある物質で柔らかい性質を持っているが,その重量は1立方センチメートルあたり19グラムであり,鉄の密度の2.4倍もあるものであって,自然界に存在する元素中では最大である。
     このように,劣化ウランは比重が大変大きく(鉛の1.7倍,鉄の2.5倍),また硬いため,砲弾の弾芯に利用すると貫通力が増し,厚い鉄板やコンクリートに穴を開けるなど絶大な威力を発揮する。
  2.  砲弾中に爆薬がなくても着弾の衝撃で発火し,高温で燃えるため,敵の殺傷力が高い。
  3.  原料が放射性廃棄物なので,極めて安価である。
(3) 劣化ウラン弾の危険性
総論
アメリカ陸軍環境制作局によれば,劣化ウラン弾が戦車に命中すれば,弾丸の材質をなす劣化ウランの約70パーセントがエアロゾール(直径数ミクロンのセラミック状のエアロゾール,空中を浮遊する酸化微粒子,1ミクロンは1/1000ミリ)に変化し,微粒子となるとされる。
 
この微粒子となったウランを呼吸によって呼吸器内部に取り込んだり,水や食物と一緒に消化器内部に取り込んだりした場合に,人体に深刻な被害を及ぼす。ここでいう深刻な影響とは,劣化ウラン弾が炸裂した地域の周辺住民及びこれを使用した軍人の退役後,その軍人自身の配偶者及び子に,明らかな健康被害が生じるということである。
 
すなわち,ひとたび体内にウラン粒子を吸入すると,粒子はまず気管や肺組織に付着する。この粒子は,その殆どが不溶性であるため,血液に溶けにくく,長期間残留する。そして,残留した粒子が放つアルファ線は近傍の組織を被曝させ続ける。それにより細胞や遺伝子を変容させ,ガン,白血病,リンパ腫,先天性障害を引き起こす。そして徐々に血液,リンパ液へ吸収され,全身にわたる様々な疾病,障害を引き起こすのである。また,吸入以外にも経口摂取や傷口から血流に進入し体内に入り込む。
 
このような極めて恐るべき兵器を,米英軍はイラクに大量にばらまいた。戦争中のみならず,戦後も,その影響を人々は自らの体を蝕まれながら生きていかなくてはならない。米英軍は,劣化ウラン兵器が投下された瞬間にかけがえのない命を奪っただけでなく,生きている人間にも,さらなる永遠の苦しみを背負わせてしまったのである。
湾岸戦争後の身体被害
劣化ウラン弾が,初めて目に見える形で出てきたのは,いわゆる湾岸戦争であるが,その後,イラク住民やイラク兵士,米軍帰還兵やその配偶者や子に対する被害が生じていることは明らかとされている。
 
1991年1月の湾岸戦争で,米軍は320トンの劣化ウラン兵器をイラクに投下した。
 
戦後イラクでは,戦前には見られなかった奇妙な現象が多発した。1家族に何人もガン患者が出たり,1人の患者が数種類のガンを発症するなど,急激な勢いでガン,白血病,再生不良性貧血および悪性腫瘍,免疫不全による感染症,大規模な発疹および帯状発疹性疼痛,エイズに似た症候群,肝臓と腎臓の機能障害による症候群,遺伝子欠陥による先天性形成異常(先天性障害)などが多発した。そして,特に胎児や抵抗力の弱い子どもたちに被害が生じた。湾岸戦争の戦場に近い南部の都市バスラでは,被害は極めて深刻であった。バスラ教育病院の医師によると,がんによる死亡者数は湾岸戦争前の1988年の34人から,2001年には603人と17倍に増加している。
 
具体的な被害の内容については,イラク住民,とくに若い女性や子供に,白血病,悪性リンパ腫,骨髄腫,肺ガン,甲状腺ガン,乳ガン,子宮ガン,腎臓ガン,肝臓ガン,脳腫瘍等の各種ガンが多発している。ガンだけではなく,免疫不全による感染症,腎臓や肝臓の疾病,呼吸器系疾病,関節炎,妊娠異常も多発している。
 
また,湾岸戦争退役兵のうち,イラクにおいて劣化ウランの粒子を吸入したりして体内に劣化ウランを残留して被曝した可能性のある元軍人の4割以上が,各種ガン,免疫不全,腎臓・肝臓の慢性疾患,気管支障害等の障害を訴えて退役軍人省に治療要求を行っている。
 
このような傾向は,イギリス軍の湾岸戦争帰還兵にも見られる。
劣化ウラン兵器が,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊に影響を及ぼすこと
(1) 劣化ウランと健康被害との因果関係
この劣化ウランと各種ガン等の健康被害との因果関係については,現時点においても様々な議論があるものであり,確定的な結論は出ていない。
 
しかし,そもそも,この劣化ウランと各種ガン等の健康被害の被害国における科学的・医学的な立証は非常に困難であると言わざるを得ない。
 
ここで問題とすべきは,イラク特措法第9条が内閣総理大臣と防衛庁長官に課した,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊がイラクで活動するに際し,それらの生命・身体につき,安全を確保すべき義務を十分に果たしているとはいえない状況が,サマワ及びこれを含んだイラク全土に存在しているという違法状態である。
 
将来,サマワから帰還したイラク復興支援職員及び自衛隊員に,イラク国民及び米英をはじめとする帰還兵に見られるような各種ガン等の健康被害が生じることは当然に予見されるところである。
(2) イラク特措法第9条との関係
イラク特措法第9条が内閣総理大臣及び防衛庁長官に対して課す安全配慮義務は,このような被害が明るみに出た際に事後的に救済することを要求するものではなく,ましてや,その健康被害とイラクでの活動との因果関係を否定することでもなく,まさに,事前にそのような被害発生を食い止めるための予防の措置を取ることを要求しているものである。
 
そうすると,少なくとも,湾岸戦争以来,全世界的にその被害が問題視されている劣化ウラン弾の脅威にさらされているサマワにおいて,漫然とイラク復興支援職員及び自衛隊の部隊を作業に従事させる行為は,それらの生命・身体に対する事前の予防措置を取るべきことを要求するイラク特措法第9条に違反するものというべきである。
(3) 政府の劣化ウランについての認識
劣化ウラン弾の問題については,従前より問題となっていたこともあり,政府も,関心を示してきたものであるが,国会においても,以下のようなやり取りがなされている。
「第153回国会 沖縄及び北方領土問題に関する特別委員会
 2001年11月21日
  •    原口一博議員 
     私は,国連の経済制裁,軍事行動でなければ経済制裁は許されるんだというスタンスには立ちません。経済制裁がどれほど多くの人道的な,そして罪のない子供たち影響を与えるかということを,もうここらで精査するときに来ているというふうに思います。
     こういう人道に対する兵器は,国連の人権委員会の小委員会の中で,1996年,しっかりと決議しているのです。劣化ウラン弾やクラスター爆弾,核爆弾といった人道上問題がある大量無差別殺戮兵器について,国連の人権小委員会は,人権,特に命への権利の享受に不可欠な条件としての国際の平和及び安全と題して決議を出しています。そこには,核兵器,化学兵器,ナパーム,そしてクラスター爆弾,生物兵器及び劣化ウラニウムを含有する兵器などというのが,しっかりと列記をされています。
     これらの兵器の使用がもたらす悲惨な死,苦痛及び傷害,人間の生活及び健康,環境に与える長期的な影響,汚染され,遺棄された装備が生命に対する深刻な危険を明確に示しています。これは国連の決議です。
     さて,どうでしょうか。私たち,沖縄には劣化ウラン弾がどれくらい置いているのか,それはわからない。しかし,米軍がこれを持ち込んでいることは確認されています。
  ・・・外務大臣,こういう兵器に対しての基本的な認識をお伺い致します。
  •    田中眞紀子外務大臣
     今,原口議員がご指摘になっておられますのは,1996年の人権,特に生命に対する権利の享受のための必須条件としての国際平和と安全を指すというふうに思われます。同決議は,前文の中で,今,委員がおっしゃったように,大量の非差別破壊兵器の製造,使用等は国際的な人権及び人道法と両立しないということを述べている。そして,その上で,全ての国が劣化ウラン弾やクラスター爆弾等の製造及び拡散を制限することを要請しているということであります。
     これはご不満かも知れませんが,この決議というものは,個人の資格で構成されている小委員会によって作成されたものであって,法的拘束力は有するものではないということもご案内であると思いますが,それを踏まえましても,そういう劣化ウラン弾の問題,それから,今,委員がおっしゃっていませんけれども,デージーカッターの問題もありますし,今回のテロに関連しましては,そういう兵器,それからクラスター爆弾も,あらゆる委員会で指摘をされております。」

「第155回国会 衆議院予算委員会
 2002年10月24日
  •    海江田万里議員
     イラクの攻撃の問題で,実は各議員の皆さん方に「チルドレン・オブ・ガルフウォー」という湾岸戦争の時の子供たちの写真集があるわけでございますが,この中で劣化ウランの問題ですね。これは,もう一つの別の核戦争だというような表現もございまして,私は,こういう問題を大変危惧しておりますので,日本ももっと,一部のNGOの方々はこういう支援活動をやっていますが,政府も,こういう劣化ウラン弾,間接的に被曝をしたり,あるいは直接的に被曝をした子供たちの救助のために何らかの形の救済の手を伸べることが必要ではないだろうかというふうに思うわけでございますが,総理,いかがでしょうか。
  •    川口順子外務大臣
     劣化ウランの問題につきましては,私どもも関心を持っておりまして,きちんとそのように対応をしていきたいと思っております。」
 このように,政府は,2001年あるいは2002年の段階で,劣化ウラン弾が少なくとも,世界的に人道上,あるいは極めて危険性の高い兵器として認識されていたことを認めているものである。

(4) 安全配慮義務違反
内閣総理大臣及び防衛庁長官は,このような政府の認識の中で,劣化ウラン弾等の危険性を無視する形で,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊等をイラク本土に派兵したものである。
 
劣化ウラン弾の危険性については,少なくとも2002年ころまでには,その危険性が極めて大きな兵器であることが判明している。
 
そうすると,その後において,内閣総理大臣及び防衛庁長官が,そのような危険性著しい兵器及びこれにより害された環境に,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊等を漫然と派遣し,また,そこから撤退するよう積極的な行為に出なかった不作為は,同法9条に違反する違法行為であるというべきである。
 
ある兵器の安全性に疑惑がある限り,これにより,イラク復興支援職員及び自衛隊の部隊等の生命・身体に対する危険が消え去ったものとは評価できない以上,相手方の生命・身体を害してはならない安全配慮義務を尽くしたものとは評価できないからである。
  
「要員候補の家族も不安を隠せない。幼児を抱える隊員の妻はうつむき,『何もしてやれないのが辛い。とにかく無事に帰ってきて欲しい』と,声を絞り出すのがやっとだった。」(熊本日々新聞平成17年10月4日)
 
原告らの思いは,まさに自衛隊員のご家族の思いでもある。
以 上


このページの上に戻る