自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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ニュースレター13号より 2007.06.18


6.18 第9回口頭弁論

小林武先生の証人尋問が実現!


6月18日第9回口頭弁論が開かれ、愛知大学法科大学院教授の小林武先生(憲法学)の証人尋問が行われました。小林先生の証言は格調高く、聞くものの胸を打つすばらしいものでした。最後のところでは裁判官に「あなた達は一人ではないよ、国民が支持しているから勇気をふるって違憲立法審査権に踏み込みなさい、それが憲法が司法に求めていることだよ」と訴えられました。

裁判前の集会
裁判前の集会
川口弁護士(名古屋から) 近藤さん
川口弁護士(名古屋から) 近藤さん(岐阜から)


 小林武教授
小林武教授

 

●3次提訴含め全ての原告が併合に!

尋問に入る前に亀川裁判長は1次2次提訴原告とともに4月20日に新たに提訴した第3次原告も併合とすると述べました。これで熊本訴訟の原告は1つにまとまりました。

●はじめに加藤弁護団長が質問にたち、小林証人の最も印象に残る意見書はという質問に、「エホバの証人」信者の高校生による剣道実技拒否訴訟であると述べました。更に先生の専門分野である「平和的生存権」に質問は及び、「平和的生存権の根拠は憲法前文それ自体、短く言えば恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存するという文言に根拠を求める」「平和的生存権と9条そして第3章の人権規定との結びつきという形で一つの体系的な規範構造が出来ている」と述べた。



●平和的生存権は裁判規範性を持つ

次に平和的生存権の裁判規範性に質問は及んだ。「憲法前文は憲法の1部であり、改正は96条によらなければならない。」「憲法前文それ自体が裁判規範を持つとは言えない」「具体的な性格を持ち本文の他の規範、規範構造と結びついている部分が裁判規範性を持つ」「平和的生存権は積極的に裁判規範性を認めることができる」と平和的生存権が裁判規範性を持つことを明確に語った。更に最高裁判決に触れて、「百里基地訴訟の最高裁判決では平和という概念は多義的で具体性に欠ける、具体性を欠いた平和という概念を用いた平和的生存権は裁判規範性を持たないと言っている。しかし憲法訴訟で議論される平和は日本国憲法における平和であり、9条によって明確に定義された平和です。従って最高裁の論理は平和的生存権に裁判規範性なしという論拠にはならない」「百里基地訴訟は自衛隊基地の売買に関する訴訟であり、本件のように明確な公権力の行使について平和的生存権の裁判規範性が争われた場面での最高判はない。」


●平和的生存権の侵害とは?

平和的生存権の定義はという質問に、「戦争をせず、武力による威嚇をせず、そして戦力を保持しない日本に生存する権利ということになる」と明確に答えた。平和的生存権が侵害されたというのはどのような場合かという問いに「9条違反の公権力行使がなされたときである」と述べた。更に現在わが国の状況は平和的生存権が侵害されている状況かという質問に「自衛隊イラク派遣だけに絞っても9条違反というだけにとどまらず、自衛隊法にも違反し更にイラク特措法にも違反している。法治主義の体系からは説明しがたい行為が今日なお続けられている」と厳しく指摘した。


●情報保全隊は違法な権限行使だ!

次に自衛隊情報保全隊の市民監視活動に質問は移った。「ほんとうに背筋が寒くなった。これは戦前の憲兵と同じ活動である。こうしたことが今日あり得るのか。自衛隊法にいう治安出動下令前の情報収集活動にも当たらない。自衛隊法施行令にもない。国家機関が権限行使をする根拠なしに違法な権限行使をしている。」「自衛隊のこうした行為は私達市民の平和的生存権の侵害である。久間大臣の答弁ではイラク派遣をしている自衛隊員家族の安全を守るためにこうした活動をしているということからこの問題はイラク派兵と結びついている。深刻である。」と批判した。


●差し止め請求の要件とは?

河口弁護士が質問にたち、平和的生存権を根拠に公権力の行為差し止め請求ができるのはどういう場合かを質問した。これに答えて「国民の権利あるいは法的に保護された利益の侵害を受けた時一般的に賠償請求権が成立する。差し止め請求をする場合要件はややしぼられる。重要な権利が重大な侵害を受けたということ、またその権利主体が差し止めを請求しようとしている国家行為との間に特別な関係を持っているなどの要件が加わる」と述べた。


●名古屋地裁田近判決の画期的な意義!

更に今年3月23日の名古屋地裁の田近裁判長の判決文を示し意見を求めた。「二つの点で注目している。一つはこれまで最高裁が示してきた判例を引き継ぎ民事事件の請求として差し止め請求が不適法であると述べている。もう一つは訴えを退けながらも平和的生存権と人格権の成立可能な場合があると述べている点である。平和的生存権が各人権の規定的な権利だと非常に大事な認識を示している。また人格権についても9条と前文の歴史的な経緯に鑑み戦争のない武力行使をしない日本で平穏に生活する利益と述べている。そしてこの利益が法的保護に値する場合があると述べている。平和的生存の人格権が認められる余地があるということだと理解される」


●自衛隊の派遣差し止めは可能か?

自衛隊の海外派遣が差し止め可能となるのはどのような場合かという問いに対して「イラクへの自衛隊派遣は単に自衛隊を海外に出したというだけにとどまらない。戦場になっている外国へ武装した部隊を派遣したのだ。PKOとはずいぶん違う。湾岸戦争時の掃海艇派遣とも違う。ブーツオンザグラウンドというのは格段に違憲性が強い。平和的生存権、平和な生活の人格権が侵害される程度も格段に大きいと言える」として差し止めが可能になるという認識を示した。「イラクの治安状況は壊滅的である。内戦状況と言わざるを得ない。このような侵攻は止めてイラクの民衆が自らその運命を決める、民族自決を可能とするような国際環境を作らねばならない。日本も関わっている以上権力担当者が真摯な態度を取るべきである。」

●イラク特措法にも違反する!

またイラクでの空自の活動について「イラクの中で最も治安の悪いのがバクダッドである。イラク特措法でいう戦闘地域中の戦闘地域である。証拠(空自が開示した黒塗りの報告書)についての報道を見た時、国民に情報が知らされていないことの重大性を感じた。主権者に情報公開をしないということは民主主義の大本を崩していると思う。」と述べた。
更に空自の活動を米軍の公式ウェブサイトではコンバット・ゾーンに配備されていると表現していることに質問が及んだ。「直接にはイラク特措法に対する正面切っての違反だと思う。これは明らかに日本国民の平和的生存権侵害していると言わねばならない。」「今般の自衛隊の派遣は憲法はもとより、自衛隊法やイラク特措法から見ても全くその根拠持たない国家の公権力行使と言わざるを得ない。それによって受けている人々の権利や利益の侵害は重大であると言える。」と述べた。


●原告は人格権を持つ!

今度は板井駿介弁護士が質問に立った。弁護士は再び人格権について質問した。「本件では原告の人たちは自衛隊のイラク派遣により不快感、焦燥感ないしは恐怖などの感情の侵害を受けている。しかし平和的人格権をいうにはそれに加えてそれぞれの人が当該国家行為つまり自衛隊派遣との間に特殊な関係性を持っていると言うことが重要になる。」そこでNさんの陳述書を弁護士が示した。「原告の陳述書を全て拝見した。これだけのものを読むことはしんどかった。しかし読み進めると率直に言って胸を打たれた。全ての原告が平和的生存権、人格権を主張する適格を持っている。Nさんは自衛隊の総監部のあるところで生活し自衛隊の家族とも親しい。自衛隊は日本を守るもので海外に行くことはないと自衛隊家族もNさんも思ってきた。しかし今回の海外派遣でショックを受け打ちのめされている。こういう事例は人格権を証明するのに適してる。」更に原告Fさんの陳述書については「この方は僧侶であり、法要をなさる。そのことを通じて平和を深く考えている。宗教者という仕事を通じて戦争でなくなった人への思いを強め兵牙無用という釈尊の教えをあらためて知ったことがイラク訴訟への動機であると述べている」その他FRさん、Mさんそれぞれの陳述書が人格権の主張をなし得る内容であると述べた。またイラクでの現地調査についてもその必要性があると証言した。


●裁判所の役割を放棄した甲府地裁判決

次にイラク派兵差し止め甲府地裁の確定判決の「間接民主制の下に於いて決定、実施された国家の措置、施策が自らの信条信念、憲法解釈等に反することによる個人としての義憤の情、不快感、焦燥感、挫折感などの感情の流域の問題と言うべきであり、そのような精神的苦痛は多数決原理を基礎とする決定に不可避に伴うものである。こういうことを理由にして人格権侵害が認められない」という内容にについて質問が及んだ。「一番驚いたのはこの間接民主主義論の部分だ。根本的な民主主義解釈に於いて問題がある。今日近代国家がとっているのは多数決民主主義ではなく立憲民主主義である。立憲民主主義とは人権の保障を大前提とし、少数者の自由、人権を最大限取り入れ配慮した民主主義。そこから排除された少数者の人権を救済できるような民主主義である。甲府地裁は裁判所としての役割を自ら放棄している。」きっぱり言い切った。

●格段に違憲性が強い自衛隊派兵

次に憲法訴訟で判決理由中で憲法判断を示すことについては「たとえば靖国訴訟の福岡地裁判決や大阪高裁判決に見られるこの手法は司法審査性に於いて有益であり、必要である。」と歓迎する意見を述べた。更に政府のイラク派兵行為がこれまでの自衛隊による活動と比較してどれほどの違憲性を持つのかという問いには「繰り返しになるが、今回は直接戦場になっている他国へ武装した自衛隊が5000という規模で派遣されていることの違憲性がこれまでとは違う事態だ。長期の派遣で将来の見通しが立たない、日々多くの人が亡くなっているという状況はこれまで日本の憲法下で私達が経験したことのない戦争への参加である。違憲性の度合いは格段に深い」と述べた。


●戦争の芽を若葉のうちに摘め!

板井弁護士は国民の平和的生存権を守るために司法がいかなる判断をすべきかと力を込めて質問した。これに対して「戦争について日本国憲法は科学的な認識をしている。戦争を起こすことができるのは国家だけであるという認識を取っている。戦争はある日突然やってくるものではない。戦争準備が積み重ねられその結果として戦争に至るものである。その準備の段階でそれを止めなければならない。最も大きな役割を果たすものの一つが裁判所である。違憲審査権という気高い権限を憲法を通して国民から与えられている。戦争準備が進みどうしようもないところまで至らない段階でこの戦争の企みを若葉のうちに摘まなければならない。裁判所の果たす役割は司法審査権の行使を通して大変大きいものである。国民はそれを支持するし、国民に支えられた権限行使ということになると期待している。」


●裁判所は違憲審査に踏み込め!

そして最後に裁判所が果たすべき役割について憲法の観点から話して欲しいと呼びかけられた。これに対して「私は違憲審査制ということをテーマに修士、博士の過程から勉強してきた。裁判所が違憲審査権をいざ行使するとなると大きな決断が必要になる。一つは政治がある。大きな影響を政治に及ぼすことになる。もう一つは個々の裁判官に違憲審査権が付与されていることからたった一人のあるいは三人の合議の決定が大きな影響を政治をはじめ国家運営に及ぼすことへの遠慮ないし逡巡がある。これは人間として理解できるが、同時に憲法はそれを期待しているし、その期待をバックアップして裁判官の独立や裁判官の身分保障というものを最大限厚くしている。原告はじめ国民の皆さんは支持している。そういう中で法的な判断を政治に対して右顧左ベンする必要は全くない。法的にはこうであるという判断を裁判官が示して下さることを私は期待し発言を終わります。」とまことに格調高く結びました。法定は原告・傍聴者から大きな拍手が起きました。



弁護士
弁護士さん(左から、加藤、塩田、河口大輔、板井俊介)





裁判傍聴記

原告:石田博文
      


小林先生の尋問は、わかりやすい憲法の講演を聞いているようだった。憲法前文の理解の大切さ、平和的生存権の意味、司法の独立性(違憲審査制)の重要さなど、明快な語り口で話された。イラクへの自衛隊派兵は、現在航空自衛隊がイラク全土へ米軍などを輸送しているが、コンバットゾーン(戦闘地域)であると米軍は明言しており、イラク特措法にも違反していると述べられた。私は、小林先生証人調書が手に入れば熟読し、イラク派遣違憲訴訟の正当性と勝利への確信を持ちたいと思う。 
                   



資料
 小林武先生の証人調書参照


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