自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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資料  2006.04.17
あゆみ第5回口頭弁論参照

意見陳述一覧 参照

板井優 意見陳述




第5回口頭弁論 

2006年4月17日 熊本地裁

弁護士  板井優
意見陳述


今、トルコで「狼の谷イラク」という映画が今年2月3日の封切りから約1ヶ月で400万人を超える観客を動員し、記録を更新したといいます。今月4月5日付朝日新聞によると、「罪のない民間人殺害。ロケット砲での神聖なモスクの破壊。捕虜の虐待。悪行の限りを尽くす重武装の米軍部隊を、黒髪、黒い目の精悍なポトラが仲間3人や女性の力で全滅させる。実話と荒唐無稽なフィクションが一体の『復讐物語』だ」とされ、主人公のポトラは「トルコ版ランボー」と呼ばれていると報道しています。

2003年3月20日の米英軍のイラク侵攻から、3年の年月が流れました。トルコは、米国が進める中東民主化政策のモデル国であるとされ、まさに親米国です。そのトルコで、反米映画が空前の大ヒットであるということが今日の米英軍のイラク戦争の実態をよく表わしています。私たちは、去る4月14日に準備書面を提出しましたが、それは、今日のイラク戦争が大義もない、不正義で不法の戦争であるかを事実に基づいて主張しているものです。


私たちは、これまでの準備書面で、自衛隊のイラク派遣は「イラク特措法」第2条第3項第1号の要件を充足していないと主張してきました。すなわち、イラク特措法第2条第3項1号は、「対応措置」すなわち人道支援活動又は安全確保支援活動の取られる地域を外国の領土とした上で、イラクにあっては「施政を行う機関の同意」が必要である、とされています。

イラクでは、昨年1月30日に国民議会選挙が行われ、同年4月28日に移行政府が発足し、10月25日には新憲法案が承認され、同年12月15日には連邦議会選挙が行われました。そして、今年3月16日に連邦議会が初召集されたものの、現在に至るまで新政府樹立への連立協議は暗礁に乗り上げたままです。今朝の報道でも連邦議会の開催見送りとなっています。

こうした中で、今月7日の熊本日日新聞は「内戦前夜・・・イラク」との特集記事を出しています。内戦ともなれば、イラクにおいて「施政を行う機関」は複数になるものであり、その同意を得るどころではありません。

この内戦状態は、今年2月22日にイラク中部サマラでシーア派による聖地アスカリ聖廟が爆破されたところから始まり、事件後バグダットだけで約1500人が殺された(死体安置所)とみられています。また、2006年4月14日の朝日新聞ではイラク中部バクバ近郊シーア派のモスクで同月12日自動車が爆発し少なくとも26人が死亡したと報道されています。要するに、いまやイラク特措法第2条第3項第1号「施政を行う機関の同意」を充足する見込みは全く立っていないのです。

こうした中にあって、政府は今月15日、イラク南部サマワに駐留する自衛隊について現在の第9次復興支援群を最後に撤退させる従来の方針を断念し、新たに第10次復興支援群を派遣する方針を固め、6ないし7月の撤退を模索すると報道されています(2006年4月16日付毎日新聞)。

報道では、「イラクの治安悪化、新政府の発足の遅れ」がその理由といいますが、イラク特措法の立場からすれば、いまやイラク全土が戦闘地域であり、かつイラク国民が正当に選出した政府の同意もない自衛隊のイラク派遣は、まさに同法第2条第2項、同第3項1号に違反するものであることは明々白々であります。どうして、行政は法を無視するのでしょうか

私たちは、このような状態の下での自衛隊派遣は、イラク特措法第9条の安全確保の配慮義務に反し、戦闘だけでなく、劣化ウラン弾の破片による放射能汚染など自衛隊員自体の生命と健康を失う恐れがあると言わざるを得ません。無意味な戦争の犠牲者を増やしてはならないのです。


なぜ、ここまでして政府すなわち行政は自衛隊のイラク派遣にこだわるのでしょうか。本当に、自衛隊の派遣は「人道支援活動または安全確保支援活動」(イラク特措法第2条)のためでしょうか。

私たちは、自衛隊のイラク派遣は憲法だけでなく、イラク特措法にも反した違憲・違法処分であると主張しています。今回の準備書面で、私たちは政府があくまでも自衛隊をイラクに派遣するのはわが国を「戦争の出来る国」にするための目的のためであると主張しています。本日の原告の意見陳述で、自国民の命よりも、日本国民を守るとする自衛隊派遣を優先するという大きな矛盾が指摘されました。「戦争が出来る国」造りのためには、憲法9条だけでなく、軍法会議などの特別裁判制度を禁じた憲法76条も実質的に変えられようとしています。要するに、軍事裁判所が外国に派遣された自衛隊が行う武力行使を自衛のための行為として合理化できる制度を造ることになります。軍事裁判所が事実認定を独占すれば、外国での殺人・傷害などの犯罪行為も合法化される可能性は無限にあるのです。

日本国憲法は、第2次世界大戦の深刻な反省の上に成り立っているものであり、集団的自衛権の発動としての武力行使による国際紛争の解決は決して問題の真の解決にはならない、という歴史的反省であります。

憲法はもちろんイラク特措法をも逸脱した形で行われる現在の自衛隊のイラク派遣を司法が断罪することが今こそ必要にして不可欠です。


最後に、本件訴訟の進行について意見を申し上げます。

自衛隊のイラク派遣の法的効力を問う札幌地裁の裁判では、原告本人の箕輪登さんの本人尋問が平成18年2月27日に実施されています。ご承知のように、箕輪さんは連続8期23年間衆議院議員を務め、防衛政務次官、国会では安全保障特別委員会委員長も歴任された方です。

また、同じく静岡地裁では、一ツ橋大学名誉教授の山内敏弘証人が今年1月27日に平和的生存権は具体的権利性、裁判規範性が認められると証言しています。さらに、大阪地裁では、今年2月2日に12名の原告本人尋問が実施されました。

私たちは、これが裁判であると考えています。私は、この熊本で水俣病、ハンセン病、川辺川利水訴訟などの裁判に関与してきましたが、どの裁判もやっても負けると言われてきました。しかし、結果は異なりました。裁判は具体的事実を前提にした、優れて価値的な判断であります。

私たちは裁判所におかれては私たちの言い分を証拠も含めて調べ上げた上で判断をして頂きたいと考えています。特に、イラクでイラク特措法の規定に反してサマーワが戦闘地域なのか、施政を行う機関の同意があるのかどうかをイラクでの現地検証も含めて実施すべきと思います。私たちは、それが日本国憲法の下で裁判を受ける権利である、と考えています。

 以上で、私の意見陳述を終わります。
 



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