自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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資料  2007.01.26
あゆみ第8回口頭弁論参照

意見陳述一覧 参照

板井優 意見陳述




第8回口頭弁論 

2007年1月26日 

平成17年(ワ)第367号
自衛隊イラク派兵差止等請求事件
原 告  藤 岡 崇 信 外45名
被 告  国

意見陳述書

原告訴訟代理人
弁護士 板井優


熊本地方裁判所第2民事部 御 中

1 はじめに
原告らは、本日までに準備書面8、準備書面9を提出し、証人尋問及び検証申立に関する意見書、さらに甲号証を提出いたしました。検証申立に関してはなにぶん国際的な問題も絡んでおり、さらに補充の意見書を提出する予定です。
そこで、以下は準備書面8、9、および証拠に基づいて、訴訟進行も含め意見を申し上げます。

2 久間防衛大臣のイラク戦争批判
昨日の熊本日日新聞2面に、久間章夫防衛相が日本記者クラブで会見しイラク戦争について、「核兵器があるかのような状況でブッシュ大統領は踏み切ったのだろうが、その判断は間違っていたと思う」と批判しました。
これは、ブッシュ米大統領が何ら大義のない侵略戦争をしたことをわが国の現職の防衛大臣が公然と認めたものです。このような侵略戦争を起こした米軍を中心とする多国籍軍の軍政機関であるCPA(連合暫定施政当局;原告第2準備書面)はまさに住居侵入強盗団の片割れであり、イラク特措法にいうイラク政府に代わって自衛隊イラク派遣の同意を出来るわけはありません。
この批判は、米国でブッシュ大統領が一般教書演説でイラク増派の正当性を訴える中で行われたものであり、この法廷にいる多くの方々が驚かれたと思います。
しかし、私が本当に驚いたのは、久間大臣は自衛隊派遣延長問題に関し、「主要国がイラクやアフガニスタンの復興支援などに参加することを上げて『日本だけが何もしなくていいのか。(日本だけが撤退したら)足並みが揃わないのではないかという気がする』と(し)・・・、現在の航空自衛隊による空輸活動の継続が望ましいとの考えを示した」という部分です。確かに、イラク特措法に基づき自衛隊が派遣されているのですから、行政の責任者として自らが直ちに派遣中止を言えないかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか。
2001年5月11日、熊本地裁はハンセン病国家賠償訴訟で国の責任を断罪する歴史的な判決を下しました。この判決は、厚生省(当時)の責任は1960年以降、国会については1965年以降責任があるとしています。要するに、この判決では、憲法に反する「らい予防法」は国会で廃止される前であっても、タイムラグの5年間は、行政はこれに従ってはいけないと明言しているのです。そして、この判決に対しては、当時の小泉純一郎首相は控訴を断念しました。判決の後、私たち弁護団は法務省の大臣官房長と、ハンセン病補償法と裁判所での和解手続の関係について官房長室で打合せをしました。その時に、官房長は、「今回の小泉首相の控訴断念は明治以来の司法の快挙である」と話しました。私もまさにそうだと思いました。憲法は99条で公務員の憲法擁護尊重義務が定めています。私は、国が自主的に自衛隊のイラク派兵を中止することが今こそ求められているものと考えます。
本件訴訟は、言うまでもなく米国を中心とする多国籍軍のイラクへの侵略戦争に、国が自衛隊を派遣したことの違憲・違法性を前提にその差止めと損害賠償を求めるものです。
国は、イラクのサマワから陸上自衛隊を撤退させました。私たちはその理由はまさにサマワは戦闘状態にあり、自衛隊を護っていたオランダ軍や英軍が撤退するとしたことと連動した動きと考えています。もし、サマワが非戦闘地域でイラクの人道復興援助活動が必要だとするのであれば陸上自衛隊を撤退させる必要性は、国にとってはないはずです。もし、人道復興支援活動が必要ないというのであれば航空自衛隊派遣の必要性もないはずです。
しかも、現在イラクは内戦状態にあり、もはやイラク特措法により自衛隊の派遣に同意する正統政府はないはずです。米国でも中間選挙で、上院・下院そして州知事も含めて共和党は敗退し、米軍を増派してあくまでも戦争継続を図るブッシュ大統領に対し、与党共和党すら公然と反対の声を上げています。
にもかかわらず、国は昨年12月に航空自衛隊の派遣を今年7月まで延長しました。そして、現職の防衛大臣が、ブッシュ米大統領のイラク戦争を批判するにもかかわらず、航空自衛隊のイラク派遣中止を決定できないこの国の情けない事実があるのです。

3 司法権の果たすべき役割
私はこうした事態に対し、まさに司法がその理性を示すべきと考えます。
2001年5月11日、熊本地方裁判所はハンセン病国家賠償訴訟において、ハンセン病回復者の「社会において平穏に生存する権利」を憲法上の権利と認めました。これはハンセン病患者がハンセン病療養所に終生にわたり絶対的に隔離されるというだけでなく、ハンセン病罹患ということで社会の中で公然と生きていけないことは、憲法上許されないことを宣言したものです。憲法の人権規定は時代とともに変わるものであり、平和的生存権も同じように憲法上尊重されるべきものです。最近ヤフーの世論調査や、静岡新聞の世論調査で憲法9条の改悪を許さない声が過半数を超えたということです。今後、米国がイラク戦争政策を強行する中で、憲法9条を護ろうとする国民世論はますます大きな流れになるでしょう。
私たちは、本件訴訟において平和的生存権に関する証人尋問を求め、さらにイラクが戦闘地域かどうかについて、被告との間で争いがありますので、裁判所において検証するよう求めています。もちろん、民事訴訟手続上どうしても裁判所がイラクに行けないのであれば、イラクの裁判所が検証することも含め検討すべきであります。争いがあれば証拠に基づいて判断する、これが裁判であり、この裁判も例外ではありません。

4 証人尋問について
ところで、本件訴訟と同様の裁判をしている各地の裁判所で証人尋問や原告本人尋問が行われてきました。私たちは、他の裁判所での尋問と同じ尋問をするのではなく、それと重複しない形で証人尋問、原告本人尋問を準備しています。
私たちが求めている証人尋問は、山田朗証人と小林武証人であります。山田証人は明治大学教授で軍事に関する専門家であり、この裁判で問題となっている航空自衛隊の武装と機能、イラク特措法の基本構造と要件、安全確保支援活動の具体的内容、人道復興支援と軍隊たる自衛隊の矛盾、自衛隊が米軍の指揮下にあること、イラクに駐留する多国籍軍の国際法違反など軍事面の専門家であります。山田証人は札幌地裁でも証言していますが、主として陸上自衛隊に関する証言であり、本件では航空自衛隊に焦点を当てた尋問を検討しているところです。
小林証人は愛知法科大学院教授で憲法に関する著作も多く、平和的生存権に詳しい研究者であり、わが国の歴史上初めての戦場となっている地域への陸上・航空自衛隊の海外派遣という事態との関係での平和的生存権の具体的な展開、派遣された自衛隊員の権利との関係について研究したものであります。
裁判所が私たちの正当な訴訟活動を正面から受け止めていただいて、適正な裁判手続きをされることを述べて私の意見陳述を終わります。



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