自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
ホームあゆみ会員募集リンク問い合わせ


資料  2006.07.10
あゆみ第6回口頭弁論参照

意見陳述一覧 参照

加藤修 意見陳述

私たちは何故イラク戦争に反対するのか




第6回口頭弁論 

2006年7月10日 熊本地裁

加藤修(弁護士)

私たちは何故イラク戦争に反対するのか


  私は,陸上自衛隊がイラクから撤退すると決定したこの時期に,改めて本件訴訟の意義とイラク戦争について考えてみたいと思います。
イラク戦争派兵に何故私たちは異議を述べるのか。
それは,戦争という行為そのものに対して反対をするからです。
戦争は,人とその家族の命を破壊し,幸福な家庭を破壊し,また人から未来を奪うという悪そのものであるからです。

日本の自衛隊は,確かに一人も殺さなかったし,また一人も殺されてはいません。しかし,それはそれとして評価できるとしても,日本はイラク戦争を支持しており,主に米軍が行った様々な残虐な行為について共同の責任を負わねばならないのです。
米軍の行った数々の残虐行為について述べます。

@  ハディサでは,米兵が女性子どもを含む民間人24人を虐殺しました。生き残った十歳の少女,イマン・ハッサンさんによると,朝7時過ぎ,イマンさんの自宅近くで,路肩爆弾が爆発,海兵隊員一人が死亡しました。家族は,爆発音は聞こえましたが家にとどまっていたところ,その15分後に突然,海兵隊員が家に押し入り,父親に何か叫ぶとともに,祖父の部屋に手投げ弾を投げ込みました。その後,家族の大半がいた居間に向かって発砲。2階から下りて来たおじは外に逃げ出しましたが,追いかけられ,撃たれました。

イマンさんは恐怖のあまり動けず,枕の下に隠れるようにして,2時間もじっとしていましたが,撃たれた家族のうめき声がその間,聞こえていました。結局,祖父母と両親,おじ2人,4歳のいとこが死んだといいます。

この事件で,海兵隊員は何件かの民家を捜索した際,無差別に発砲,殺害されたイラク人は最大で24人に上るといわれています。

A  2006年2月15日 米軍技術兵1人がイラク中部ラマディで非武装の男性を射殺。

B  3月12日 米陸軍兵士が,バクダット南方のマハムディアで,女性1人を暴行し,彼女とその夫と子どもら4人を殺害し,遺体を焼却。

C  3月15日 米軍がイスハキの民家にテロ支援者が潜んでいるとの情報に基づき,ヘリと戦闘車両で急襲。5人の子どもと4人の女性など11人の民間人を銃殺し,家屋を爆破。

D  4月26日 ハムダニアでイラクの市民1人を殺害し,52歳体の不自由な男性を殺害。

E  5月9日 4人の米兵が,3人を殺害。

F  6月20日 バクバで空爆,そして降下して射殺。子どもら13人が犠牲。

まだまだ数え上げればきりがありません。
これらの残虐な行為は,法的に償わねばなりません。米国の指導者,イギリスの指導者,そして日本の指導者も。戦争を支持したということは,これら残虐な加害行為の責任も取らねばならないということです。


  私たちが証拠で提出したDVD「リトルバード−戦火の家族たち」の中でも,次のような戦争の苦しみが描かれていました。

アリ・サクバンは,2003年4月10日バクダッドへの空爆で3人の子どもたちを一度に失った。

綿井健陽さんは言います。

想像してみてほしい。
 「おはようお父さん」とさっき会話を交わしたばかりの子どもたちが,自宅の瓦礫の中に埋まり,必死で彼らを探す父親の姿を。

脳みそがでたままの5歳の娘シャハッドを両手に抱きながら,銃声が鳴り響く街の中を,救急車に乗って3つの病院を回らなければならなかった彼の光景を。

やっとたどりついた病院で,生死をさまよう娘の手を取り,彼が着ていた真っ白なシャツが,真っ赤な血で染まっていく瞬間を。

「みんな鳥になって天国で飛んでいる」と,生き残った唯一の長女ゴフランに今も話す父の無念さを。

ハディール・カデム 1991年生まれの少女 2003年4月5日朝7時頃バクダッドにおいて米軍のクラスター爆弾の破片が右目に突き刺さった。「2度の手術で殆ど見えなかった目が視力0.01まで回復したが,破片はまだ残っている。今でも右目の奥が痛くて時々眠れない」という。


  戦争の対極にあるもの,それが法だと思います。法の支配によって人類は戦争を回避することができます。戦争を違法化するために人類は努力してきました。法の世界では戦争を肯定しません。紛争をあくまで理性を持って解決するのが法です。

本件訴訟も原告らはイラク派兵という行為に対する反対として,やむにやまれぬ行為として本件訴訟を提起しました。それに対する法の世界における応答を求めているのです。


  我国憲法は,60年以上前の戦争の大惨禍に対する深い反省によってもたらされました。そして,憲法で我国は一切の軍隊を持たないことと,交戦権を否定しました。

その後,解釈改憲の立場から自衛隊は軍隊ではないと言いつつ,自衛隊は戦力に匹敵する力を持ってきました。かつて国は海外出動をしないことを決めた国会決議もあります。

こういった法的状況にある日本において,自衛隊を海外に派兵することが許されるのかどうかというのが私たちの根本的な考えです。


  確かに陸上自衛隊は撤退を決めました。しかし,航空自衛隊は,現在13の空港に限っている仕事をイラク全空港24ヶ所に拡大して米軍の後方支援活動を行うとされています。

これは,人道復興支援活動と言っていた従来の任務はなくして全て米軍の支援活動となるということです。私たちは,この中止を願って請求の趣旨を全自衛隊に変更しました。


  現代の世界でもっとも大きな問題,それはいうまでもなく戦争と平和の問題です。

宮沢賢治は,その「農民芸術論綱要」の中で,「世界が全体幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」という言葉を残しました。

また,今回突然の引退発表をしたサッカーの中田英寿選手は,フェアプレーする責任を口にし,2001年にテロと米英軍によるアフガニスタンへの武力攻撃を「ミサイルや銃弾より言葉を役立たせなければ戦争に終わりがなくなる」と批判し,米国によるイラク戦争の時も「平和を思う気持ちを表したい」とホームページで「愛」と「平和」を訴えました。


  私たちは,日本の風土,そして法的環境の中でイラク戦争をしっかりと位置づけて,法の支配を高らかに宣言した判決を求めるものです。


 




このページの上に戻る