自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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資料  2007.11.30
あゆみ第11回口頭弁論参照:結審

意見陳述一覧 参照

(1)牟田喜雄 意見陳述 


2007年11月30日


平成17年(ワ)第367号等
自衛隊イラク派兵差止等請求事件
原 告  藤 岡 崇 信 外
被 告  国

意見陳述書 

原告 牟田喜雄

熊本地方裁判所第2民事部A係 御 中


1 私は、この自衛隊イラク派遣違憲訴訟の原告の一人として、また、一人の医師として、この訴訟の果たすべき役割について裁判長への意見を述べます。

2 私は、昭和51年に医師となり、それ以来こんにちまでこの熊本で約30年にわたり、地域医療に携わってきました。医師としての業務の中で、200名ほどの広島、長崎の被爆者の診療も行ってきました。
  
被爆者の中には職業軍人の方もおられる一方で、一般市民として、あるいは学徒動員で被爆された方が圧倒的多数です。その被爆者の方々は、まさに先の戦争の被害者に他なりませんが、あろうことか、戦争を起こした国自身は、被爆の影響をほとんど認めようとはしません。私が原爆症の認定申請にあたって書いた診断書も、行政の一方的判断で否定され続けてきました。
  
17歳のときに長崎へ動員されて被爆した男性は、飛んできたガラスの破片が体中に突き刺さり、大怪我を受けながらやっとの思いで熊本に帰り着き、その後何度もガラス片の摘出手術を受けられました。診察のときにはその傷跡を見せてくれました。結婚もされず、被爆後45年経過した72歳で胃癌を発症され、手術を受けたあと原爆症の申請をしましたが却下され、異議申し立てをしてやっと認定されましたが、4年後には胃癌が再発して苦しみながら亡くなられました。
  
このように、私が診ていた被爆者の方が次々と癌や白血病などに侵され、苦しみながら亡くなっていくのを見てきました。
  
また、別の被爆者は、学徒動員で15歳のとき長崎で被爆し、その後胃癌、膀胱癌、前立腺癌と3つもの癌に侵され、今も闘病生活を続けておられます。
  
14歳で被爆した女性は、両親と6歳の弟を原爆で亡くし、兄弟4人で親戚をたよって熊本へ来て大変な苦労をしたことを話されました。
  
このように、多くの被爆者のかたは、戦争の被害者として一生涯にわたり苦しみを背負い、私は、日々その患者さんの体に触れ、会話を交わしながら、戦争というのは本当に不幸なことであると感じてきました。戦争被害の病気と向き合ったことのある医者であれば、誰しもそのように感じているはずです。

3 しかし、日本政府は、そのような被害をもたらし続けている米軍主導の戦争に自衛隊と一体となって加担しているのです。
現在でも航空自衛隊が、米軍などを輸送し続けているイラクでは、1991年の湾岸戦争でアメリカ、イギリス軍により劣化ウラン弾という兵器が使用され、2003年に米英諸国軍によって国連を無視して一方的に始められたイラク戦争においても、アメリカ、イギリス軍は劣化ウラン弾を大量に使用したといわれています。米軍自身も、劣化ウラン弾の使用を公式に認めています。
劣化ウラン弾による被害については、私の陳述書(甲第50号証)でも述べましたが、この放射性ウランを含む微粒子を吸入したり、微粒子で汚染された飲食物を摂取することにより、体の中から被爆する内部被爆を受けます。その結果、がんや白血病を発病する原因となるのです。

我が国は、被爆国であるといいながら、イラクでは米軍を中心とする多国籍軍と一体となって平然と放射性物質を使った兵器使用に加担しています。これは、日々の診療で、その被害に苦しむ患者さんを見続けてきた私の立場からは、許し難い事実です。

4 平成17年9月、私は放射性ウラン微粒子に汚染された地域に住む人々に何がおこっているか、イラク人の医師から、直接、お話を聞く機会がありました。

その中では、陸上自衛隊が駐留していたサマワを含め、イラク南部が特に劣化ウラン弾による汚染がひどい地域だということでした。

医師の一人であるアル・アリ医師が勤務している病院では、がん患者の死亡者数は、1988年には34人だったのが、2003年には650人を超え、湾岸戦争、イラク戦争後20倍近くにまで増えているとのことでした。

また、バスラの5歳以下の子供に、がんや白血病が1995年以降急増しています。白血病は1990年15名だったのが、2004年には100人近くに増えており、2005年度は半年で114人を数え、1年間の発症数は160人を下らないだろうとのことです。リンパ腫も1990年の3名程度から2004年の50名まで増えています。また、先天性奇形の出産数も急増しています。無脳症、多発性先天奇形、四肢欠損の出産数が1988年には10人だったのが、2001年には366人に増えています。

湾岸戦争で新たに加わった環境汚染は劣化ウラン弾であり、これが急増しているがんなどの健康障害の原因であることが推定されます。これを確認する疫学調査への援助が要請されています。

サマワに駐留している自衛隊員にも、放射性ウランを含む微粒子による環境汚染での被爆が充分考えられます。がんなど、この内部被爆の健康への影響は何年、何十年もたって出てくることが考えられますが、そもそも劣化ウラン被爆の健康影響について、自衛隊員やその家族には十分な情報は与えられておりません。

それが戦争の現実だと思います。

5 私は、先日イラク戦争とその後の治安が悪化した状況の下で、普通の市民がどのような生活をしているのかを記録した映画を証拠として提出しました。

その映画は、「リトルバーズ イラク 戦火の家族たち」という題名の記録映画です。「リトルバーズ」とは小さな鳥たちという意味の英語で、米軍の爆撃によって死亡したイラクの幼い姉妹のお墓に刻まれた言葉からとられたものです。その墓標には、「私たちは天国の小さな鳥になりました」と書かれてあったのです。

この言葉に象徴されるように、結局、航空自衛隊が輸送部門を担当する米英軍の爆撃や戦闘によって、何の罪もない人々、子供や老人を含めて十数万人を超える多数の一般市民が殺され、また、目を失ったり、手足を失ったりしている現実の映像がそこにはありました。

6 私は、この現実を見て、日本の自衛隊が米英軍を中心とする多国籍軍の武力行使と一体となっていると捉えるのが常識だと思います。裁判官各位は、どのように思われるでしょうか。

国連を無視した米英軍による実質的な占領支配を、日本政府が自衛隊派遣という憲法違反の軍事行動で支援することにより、劣化ウラン弾使用によるがんなどの疾患の多発も含めて、無辜の多数のイラク国民の殺傷に加担することになるという事実は、私にとって耐え難い精神的苦痛です。

また、日本が米英軍を支援することにより、日本が国際的なテロの標的とされる可能性が現実のものとなっており、いつ何時、この日本でも、スペインやイギリスで起きた地下鉄爆破テロのようなテロが起こる可能性は否定できません。そのために、私も含めた日本国民の平和的生存権が日常的に脅かされております。

航空自衛隊、海上自衛隊を含めて、自衛隊のイラクからの完全撤退しか憲法違反の事態と平和的生存権の侵害を解消することはできません。イラク国内で内戦を招き、それを解決できないまま撤退もできないという現実が、そのことを物語っています。

「テロ特措法」が期限切れで廃止されたのに続き、自衛隊のイラク派兵の根拠になっている「イラク特措法」も参議院外交防衛委員会でその廃止法案が可決されました。これは先の参議院選挙で示された民意、イラクやインド洋から自衛隊を撤退させるべきだという民意の反映だと考えます。

私は、今こそ裁判所の憲法上の役割を発揮すべきときだと思います。行政が憲法や法律を無視する報道を見て、国民は、法に対する信頼を失いかけています。裁判所が果たすべき役割は、純粋に憲法の観点から、自衛隊のイラク派兵が正しいものなのかどうかを判断することです。それが、国民の司法に対する信頼を維持する唯一の方法だと私は確信しています。
                           

       以 上   


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