2007.01.
第8回口頭弁論参照
第1 検証の必要性 |
第2 イラク共和国と日本国との国際司法共助関係 |
第3 その他の意見 |
平成17年(ワ)第367号 自衛隊イラク派遣差止等請求事件 原 告 藤 岡 崇 信 外45名 被 告 国 |
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検証申出に関する追加意見書
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2007(平成19)年1月 日 |
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熊本地方裁判所 第2民事部 御 中 |
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原告ら訴訟代理人 弁護士 加 藤 修 外 |
頭書事件につき、原告らは、以下のとおり、平成18年11月14日付け被告意見書に対し、反論する。 |
第1 検証の必要性1 新聞記事や文献での事実認定を認める被告の誤り(1)被告の意見被告は、上記意見書で、要するに、「原告らは、新聞記事や文献等を多数提出しているから、検証も不要である」と述べる。(2)被告自身が新聞報道等を真実であると認めていることしかし、イラク共和国内の状況を調べるためには、当然、現地に足を運んだ上、実際に現状を確認せずして事実認定を行えるはずがなく、ましてや新聞記事や文献等で足りるはずがない。ところが被告は、それらの新聞記事や文献等で十分であると述べる。 それは、原告らが提出した新聞記事や文献によって、イラク国土内の治安状況が極めて劣悪であり、現在は内戦状態にあり、イラク全土が「戦闘地域」であることを認めるものに他ならない。 被告は、自らの派兵行為がイラク特措法第2条3項に反することを認めているのである。 (3)被告自身、検証目的地が「戦闘地域」であることを認めていることさらに、被告は、外務省のホームページ「イラク治安情勢(2006/12/28)」において、「イラクでは、引き続き治安組織や米軍、民間人等に対する攻撃や外国人誘拐等が相次いで発生しています」「これまでイラク政府が各地に非常事態宣言を発出した際にも、その対象にはならなかった北部クルド地域についても、過去には大規模な自爆テロや拉致事件が発生していることに注意が必要です」と述べ、その危険性を厳重に呼びかけ、イラク全土に「退避を勧告します。渡航は延期して下さい」とまで述べ、これからイラクに渡航することを「絶対に見合わせる」よう呼びかけている。従前から主張するとおり、原告は、イラク全土が「非戦闘地域」(イラク特措法第2条3項)ではなく、いわゆる「戦闘地域」であることは明らかであると主張してきた。 そこでいう「非戦闘地域」とは、法文上、@現在、戦闘行為が行われておらず、かつA自衛隊が活動する期間全てにわたって戦闘行為が行われる可能性がない、場合を指すものである。 ところが、被告の上記広報ホームページによる限り、イラクの現状は、現在の「治安組織や米軍、民間人等に対する攻撃や外国人誘拐等が相次いで発生して」いる状況なのであり、ましてや、「イラク政府が各地に非常事態宣言を発出した際にも、その対象にはならなかった北部クルド地域についても、過去には大規模な自爆テロや拉致事件が発生している」有様である。 これは、現施政機関に反対する勢力等が、施政機関やアメリカ軍のみならず、民間人までをも対象として攻撃を行っていることを意味するものであって、それは、まさに@戦闘行為があることを認めることに他ならない。 加えて、現在、航空自衛隊は、イラク共和国内にあるバスラ飛行場、バグダッド飛行場、バラド飛行場、モースル飛行場、アリ(タリル)飛行場、エルビル飛行場等に飛来し、アメリカ軍の展開する作戦の後方支援を行っている(原告ら「検証申立書」参照)。極めて常識的に考えて、上記の攻撃勢力が、アメリカ軍に対する後方支援活動を行う航空自衛隊を含む部隊を攻撃の対象にするのは当然であるといえ、A自衛隊が活動する現時点において戦闘行為が行われていることも明らかである。 したがって、被告自身、イラク全土が戦闘地域であることを自ら認め、それが故に、日本国民がイラクに渡航すること自体を「絶対に見合わせる」よう求めているのである。 被告は、現在のイラク共和国の状況から、被告は、「自衛隊の活動の期間を通じて、戦闘行為が行われることがない」とでもいうのであろうか。そうであれば、ホームページにおいて、「イラク共和国内で戦闘が行われているから渡航してはならない」などと危険性を殊更にアピールし、海外渡航の自由(憲法第22条2項)を事実上制限するような広報を行う必要など全くない。 以上のとおり、被告の意見が、極めて根拠のない薄弱なものであることは明らかである。 2 民事訴訟法第184条についてさらに被告は、上記意見書において、イラク共和国内における検証は、裁判所が行いうるものではなく、民事訴訟法第184条による嘱託が必要であるから、原告らの主張自体が失当であると述べる。しかし、原告らの主張が、なぜ失当であるのか、その理由は不明である。 そもそも、我が国の裁判所が行う検証行為は、我が国の主権に基づく国家権力の行使としての司法権(民事裁判権)行使そのものであるから、外国の承諾がない限り、当該国家の国土内に於いて、これを行使することができないのは、国家の主権概念からして当然のことである。 民事訴訟法第184条は、当該国家の承諾があることを前提に、その証拠調べの具体的方法の一例として、@外国の管轄裁判所等の管轄官庁、又はA外国に駐在する日本の大使等に、証拠調べを嘱託して行うものと規定した。同条項は、旧民事訴訟法第264条をそのまま引き継いだものである。 原告らは、要するに、本件検証申立において、民事訴訟法第184条に基づいた裁判長による嘱託を請求しているのであって(民訴規則第103条)、そのような申立には、法に反するところは一切なく、何ら失当ではない。 3 自衛隊のイラク派兵も国家権力の発動である本件訴訟では、自衛隊のイラク派兵行為が実質的な審理の対象となっているが、我が国の自衛隊の行動は、すべて日本国の主権に基づいたものであるから、イラク共和国政府の承諾がなければ当然、イラクへの派兵行為はイラク共和国の主権を侵害したものとなり、国際法上違法である。したがって、本件で言えば、2004年6月28日午前10時26分(現地時間)まで施政を預かったいわゆるCPA(連合暫定施政当局)の承諾があったからこそ、自衛隊はイラク特措法第2条3項1号に基づき、イラク国内に駐留することが法的に可能となったものと考えられる。 被告は、自衛隊の駐留という極めて重要な事実でさえ、イラク施政当局の承諾を得たにもかかわらず、民事裁判権行使には、当局は承諾しないという不合理な意見を述べているのである。結局、被告国は、派兵行為自体についても、そのような「同意」を取り付けていないものと言わざるを得ない。 同様に、2004年6月28日現地時間午前10時26分のCPAからイラク暫定政府への施政返還後も、我が国の陸上自衛隊、及び、航空自衛隊については現時点においても、イラクに駐留あるいは飛来しているのであるから、イラク暫定政府、あるいは、その後の2005年1月30日に選挙で選出された国民議会などの「同意」がなければ、イラク派兵はイラク特措法第2条3項1号のみならず、イラク共和国の主権を侵害する行為であって違法である。 仮に、被告がこれを否定するのであれば、被告自ら、上記施政機関の「承諾」を証明する同意文書を提示すべきである。さらに、その上で、原告らの申し出た検証の実施が、不可能である理由を示すべきである。 |
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第2 イラク共和国と日本国との国際司法共助関係1 1968年5月7日付け「司法共助に関する口上書」日本政府とイラク共和国との間では、1968(昭和43)年5月7日付けで、証拠調べ及び送達に関する国際司法共助(いわゆる二国間共助取決)が結ばれている。そして、イラク共和国と我が国間の同取決めは、その後解消された事実はなく、イラク共和国が現在も国家としての同一性を有している以上、その効力は、現在も有効に存在しているというべきである。 したがって、同取決に基づいて、イラク共和国内にある管轄裁判所での検証を実施することが可能である。 2 嘱託のルートについて熊本地方裁判所裁判長から嘱託の申出がなされると、同申出は、最高裁民事局長等から外務省に送付され、外務省からイラク共和国に駐在する日本国の大使館に送付された上、同大使館からイラク共和国政府における外務省に送付されることとなる。3 在イラク日本大使館なお、2004(平成16)年9月13日、鈴木俊郎特命全権大使がイラク大使に任命されており、日本国の大使館は、「919−21−50Hay Bable,Arasat Al―Hindiya,Baghdad,Iraq」に所在している。大使館は機能していることから、上記嘱託は十分に可能である。 もっとも、この大使館は、1991年9月10日、イラク共和国によるクウェイト侵攻の際に片倉邦男大使が駐イラク特命全権大使を免ぜられて以降、13年間も閉鎖されていたものである。 したがって、現在の大使館も、イラク国内の内線状況の悪化により、いつ閉鎖されるかわからない状況にある。 第3 その他の意見上記のほか、原告らによる意見は、追って追加する予定である。以 上 |
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