自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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資料  2006.04.17
あゆみ第5回口頭弁論参照

本多香織陳述書参照
意見陳述一覧 参照

宮川経範 意見陳述 




第5回口頭弁論 

2006年4月17日 熊本地裁

原告 宮川経範
意見陳述



私はキリスト教プロテスタントの日本基督教団の一教会を託された牧師です。日本政府が日本国憲法にも国際法にも反する自衛隊イラク派兵を強行し、最も大切にしなければならないはずの人の命を軽んじている姿勢に大変危惧を覚え、宗教者としてもまた日本国憲法の下に生きる市民としても被告に意見せざるを得ず、原告となりました。

自衛隊のイラクへの派遣は憲法の禁じている「海外派兵」であって違憲行為です。政府は派遣地域を「非戦闘地域」とごまかしてきましたが、実態はイラク全土でゲリラ戦が展開され「戦闘地域」であることは周知の事実です。自衛隊法を見ても自衛隊の使命は「わが国の平和と独立を守る」ことであり、イラクで活動することではないはずです。

日本は原爆という恐ろしいテロを受け、日本国憲法をもって「平和国家」として生まれ変わり発展してきたことは世界が認めていたことです。日本はイラクをはじめ中東諸国と親密な関係を保って来ました。しかし、米国の戦略に従い日本政府が自衛隊をイラクに派兵したことによってそのイメージは薄められて、いまやNGO等の活動が出来なくなり、日本人6名の命が奪われました。自衛隊イラク派兵がなければ彼らは命を失うことはなかったでしょう。

日本政府は派遣自衛隊員およびその家族の日常を戦時に変えて多大な苦痛を強いており、かつ日本国憲法によって得てきた日本の平和的印象を大きく損ない、平和を希求する日本国民の誇りを傷つけました。イラクにおいて友好関係を築き活躍していた民間邦人の活動に支障をきたらせ危険にさらし、事実民間の邦人が殺害されました。私はイラク派兵によってこのような事態を招き、日本に対して甚大な被害をもたらした被告に強い憤りを感じています。
殊に、先月の2日、イラク日本人殺害事件の実行犯がその殺害動機を自供したことが報道され私は大きな衝撃をうけました。イラク内務省は2004年10月に香田証生さんが拉致殺害されたのは、サマワから自衛隊を撤退せよとの要求を日本政府が拒否したこと、それが殺害動機であったことを明らかにしました。私の脳裏にすぐさま「テロには屈しない」と犯行グループの要求を即座に突っぱね言い切った小泉首相の不適切な態度と、それと全く逆の弱々しく恐怖におののき「僕の首をはねると言っています。すみませんでした。また日本へ戻りたいです」と、髪をわしづかみにされた香田証生さんの姿を思い出しました。「山中で首つり自殺した方々の遺体は必ず街の明かりの方を向いている、人間はいま自ら死のうとしている者でさえ、最後の最後まで希望を持ちたいものなのだ」と自殺学の学者から話をきいたことがあります。香田証生さんのご家族は小泉首相の「テロには屈しない」といった言葉をどう受け止められたでしょうか。ご家族にとってはあまりにも残酷な死刑宣告であったと私は強い怒りをおぼえます。 

実際に犯行グループの要求した48時間以内の部隊撤収は不可能だとしても、拉致され人質となっている香田さんの身の安全を考え、人命を思うならば、要求を全く無視し叩きつけるかのような答えはするべきではないでしょう。しかし、首相たる小泉氏は犯行グループを最大に刺激し、事件を最悪のシナリオで遂行させ最悪の結末を招きました。 以前1977年、日本赤軍が日航機をハイジャックしたダッカ事件では福田首相は「人命は地球より重い」と言い、政府は「超法規的措置」で乗客と引き換えに身代金を払い、犯人の要求に従い赤軍派幹部を釈放しました。1996年、ペルーの日本大使公邸に武装グループが押し入った人質事件では解決まで4ヵ月余りの時間を要し、橋本首相ら日本政府は一貫して平和的解決を主張し粘り強く交渉にあたりました。人の命の重さはあの時も今も変わらないはずです。然るに小泉首相と日本政府は何の手立てもすること無く、一民間人を見捨てたのです。

自衛隊員のご家族の中には派遣隊員の姿と重なって見えると心境を記しておられた方がありました。「自衛隊」という組織の中に組み込まれている隊員は、たとえ望んでいなくとも事実上派遣されることになり抗うことは不可能です。そしてもし自衛隊員が香田さん同様に拉致され人質とされ、同じ要求を犯人グループから突きつけられた場合、首相はどう答えるのでしょうか。日本政府はどのように対処するつもりでしょうか。
 
香田証生さんのご両親はクリスチャンであり彼の葬儀もキリスト教式で行われました。北九州地区の牧師たちが香田家に対する心無い非難中傷に応対し、協力体制をとって葬儀を執りおこないご遺族を支えました。先週4月11日に私はご両親にお会いしました。香田証生さんはまことに心優しい青年でした。ご自宅では大病を患う祖母を最後まで手厚く看病し、ケアハウスではお年寄りのオムツ交換やお風呂入れをするような、人の痛みを感じとることのできる若者でした。ご家族は彼の遺影を彼が看病し大切にしていたその祖母の遺影と仲良く並べておられました。

香田さんのイラク入りについて様々な非難がありますが、彼は決して無目的な旅人ではなかった。つい最近彼が所持していた写真がクリフホテルで見つかり、ご両親のもとに届けられました。ホテルの従業員サーメル氏が香田証生さんからイラク入り直前に預かっていたものです。それは14枚の劣化ウラン弾に よる子供の被爆写真です。香田さんはこの写真を多くの人々に見せて戦争というものを、虐殺の現状を知らせて欲しいとサーメル氏に託してイラク入りしたのです。香田さんは深い悲しみの表情を残してイラクに向かったとサーメル氏は証言しています。つまり香田さんは身の危険を知りつつ戦争を批判してイラクに入国したということです。彼は海外青年協力隊に応募したこともあり、並ならぬ平和活動への関心を持っていました。彼は「子どもに銃口向けるなんて赦せない」と語り、戦争に対する強い憤りを持っていました。おそらく、無力な子供たちを救うには自分に何ができるのか、香田さんは命をかけて人間の盾のようにイラク入りしたと私は信じているのです。

彼のイラク入りの動機がいずれであれ、日本政府はこの青年の命を救うべく手を尽くすべきで義務がありました。1948年国際連合第三回総会で採択された「世界人権宣言」第三条では「すべて人は、生命、自由および身体の安全に対する権利を有する」と規定されています。わが日本国憲法の前文には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と明記されています。まして自衛隊の派遣が原因で生命の危機に瀕しているのであるならば、派遣責任のある日本政府は、なお最大の努力を払って救出策を講じるべきではなかったでしょうか。

このように私は具体的な事実として、日本政府の違憲行為によって友人が危機におとしめられ、さらに日本政府の義務の怠慢によって殺されました。命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる、この姿勢を基調として国家的事業としたものが自衛隊イラク派兵ではないでしょうか。サマワは劣化ウラン弾による放射能被害が懸念されています。3月9日の熊日新聞夕刊によれば、米兵のみならず帰国自衛隊員の中からも5名の自殺者出てきていると報道されています。また、武装勢力によるテロ被害の報道の陰となり、米軍の空爆や戦闘によるもう一方の真実はほとんど知らされていません。開戦以来のイラク人の犠牲者は、女性や子どもを中心に増え続けているといわれています。国際貢献とは、軍事力を提供し紛争を助長するものでは決してなく、イラクにおいてはテロの温床をなくし混乱をなくすことに協力を惜しまないことのはずです。

個々の自衛隊員が人としての善意を持って現地のために尽くす、それはどんなに小さいことであっても真に尊いことであって、そのことは否定しません。けれどもなぜ自衛隊がそれをしなければならないのでしょうか。天災ではない戦争という人災に介入するための国外派遣、それも相手国の反発は必至で日本国民のためでもない。テロを誘発し混乱を招き、他の日本人を犠牲にしてでも自衛隊がそれをしなければならないのでしょうか。何がなんでも自衛隊を派遣し続ける日本政府とはいったい何なのでしょうか。

自国の国民の安全と平和を守ることをせず、米国の世界戦略に呼応するだけの外交を推し進め、大義もなく泥沼化するイラク戦争に加担し続ける日本政府に対し、謙虚な反省と速やかな自衛隊の撤退、真摯な謝罪を求めます。

現実を直視できない日本政府に代わり、司法の目でイラクの現状を見据え、自衛隊派遣の違法性をご審査いただきたくお願い申し上げます。
以上
 



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