自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
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訴 状

3
請求の原因
 第3 自衛隊派兵は「侵略」への加担に他ならない
  第4 自衛隊派遣の違憲性・違法性 

「自衛隊のイラク派兵差し止め等請求事件」訴状(2005年3月18日)を
 4ページに分けて掲載します。

1 請求の趣旨
   請求の原因 第1 この訴訟の意義


2 請求の原因 第2 イラク戦争の実態と日本の関与 

3 請求の原因 第3 自衛隊派兵は「侵略」への加担に他ならない
         第4 自衛隊派遣の違憲性・違法性


4 請求の原因 第5 原告らの被侵害利益
         第6 原告らの請求




第3 自衛隊派兵は「侵略」への加担に他ならない


1 CPAの指揮下で活動する自衛隊は占領軍の一員である

 米英等によるイラク占領政策は,国連安保理決議1483号及び同第1511号を根拠として,総合司令部の下にあるCPAによって遂行されているが,その実態は前述したように米英軍を中心とした残虐な殺戮が続く「侵略」に基づくイラク占領である。
 そして,自衛隊も占領軍の一員として完全にCPAの指揮下で行動していた。つまり,自衛隊のイラク駐留及び活動は,CPAの同意に基づきなされていたため,その活動場所や活動内容の決定・変更・撤収等を,日本独自の判断のみで行うことはできなかった。自衛隊が占領軍の一員であることは,CPAのブレマー行政官から日本政府に対して出された2003(平成15)年12月12日付け書簡において「自衛隊は連合国要員として,CPA命令第17号(注;武器使用行為はイラクの裁判権から免除される。)に定められたように処遇される」とされていることからも明らかである。
 このように,イラクに派遣された自衛隊は,国際法上でも,完全に占領軍の一員と位置付けられるのであり,いかに政府が「復興・人道支援」と唱えようとも,自衛隊派遣は交戦国の一員になったことを意味しているのである。そして,前述したようにイラク人の武装集団が日本人を人質に取り,自衛隊撤退を要求し,また占領軍と認識して砲撃をしてきていることに鑑みれば,イラク市民も自衛隊を占領軍の一員と認識していることは明らかである。


2 占領軍としての自衛隊の活動


[1]  航空自衛隊は,イラク派遣後,C−130H輸送機により武器を携行した米軍兵員の輸送を行っている(2004(平成16)年4月8日アサヒコム)。占領軍の兵員を輸送することは兵員の軍事行動と密接不可分なものであるから,自衛隊が占領軍と一体化して活動していることは明らかである。

[2] また,航空自衛隊は,同様に,米軍への物資輸送も行っている。この物資の中には武器・弾薬も含まれる。
 防衛庁は,当初から航空自衛隊の任務として米軍の武器・弾薬を含む空輸計画を立てていた(2003(平成15)年12月11日付け毎日新聞)。これに対し,小泉首相は「武器・弾薬の輸送は行わない。」と表明した。しかし,石破防衛庁長官は,「一つ一つ開けてみて調べろと言ったら,コアリション(連合軍)は成り立たない。」(2003(平成15)年12月15日,衆議院イラク特別委員会)と述べ,自衛隊の物資輸送にあたり物資の中身を独自に確認する作業を放棄した。
 武器・弾薬やその他の物資は,占領軍が占領を続けるために不可欠な物であり,それらの輸送を行うことは直接にイラク占領に加担することに他ならない。

[3] 海上自衛隊は,海上自衛艦により,占領軍のための武器・弾薬,食料などを輸送している。かかる活動も前記航空自衛隊と同様,占領軍の後方支援活動であり,自衛隊は占領軍と不可分一体の組織と言える。

[4] 陸上自衛隊は550名がイラクへ派遣されているが,このうちの半数以上にあたる約300名が司令部にあたる部署のほか,通信,整備,補給,輸送など部隊全体の後方支援にあたる要員となっており,占領軍との一体化が認められる。
  また,残りのうちの約130名は護衛要員である。護衛要員は,機関銃や対戦車火器の射撃技術を持った隊員や,装甲車輌の操縦ができる隊員が専門的に担当し,機関銃などを登載できる装甲車や軽装甲機動車に分乗して活動する(2003(平成15)年12月20日アサヒコム)。
 人道復興支援にあたる要員は残りの約120名である。
 このように,陸上自衛隊は,後方支援用員や護衛要員に隊員の4分の3以上を割り当てているのである。これは,陸上自衛隊が占領軍と一体化している事実及びサマワにおいても自衛隊員が機関銃や対戦車火器などの武器を使用する事態が十分に予想されることを物語るものである。

[5] 人道復興支援の欺瞞性
  陸上自衛隊が行う主な人道復興支援活動は浄水・給水活動であるが,この活動要員はわずか約30名である。また,派遣隊員の治療や医療支援にあたる衛生隊が約40名,宿営地設営後に公共施設の復旧活動にあたる施設隊が約50名とごく少数である。
  しかも,被告が盛んに宣伝している給水活動は,陸上自衛隊一次隊(3月〜5月)による給水活動の実績によれば,川から取水して浄化した水量8830dのうちの給水先は,
       ムサンナ県水道局への給水 4340d
       駐屯地の自衛隊による消費 4070d
       オランダ軍への給水     420d
であった。つまり,給水の半分は自軍及び占領軍へのものなのである。そして,ムサンナ県水道局への給水は一日あたり約70dにとどまり,フランスのNGO「アクテッド」が一日あたり約600d(自衛隊の約8.5倍)給水しているのと比べると,いかに非効率であるかが一目瞭然である。
  被告は,かかる実態を隠そうとし,自衛隊の給水活動の場面のみを強調するが,これは国民の知る権利に応えるものとは到底言えない。前述したように,自衛隊のイラクでの任務は占領軍のための輸送等の後方支援活動であり,占領軍と一体化して侵略に加担している実態を隠しながら,ごくわずかしか行っていない人道復興支援活動を誇張することは欺瞞的であるとの評価を免れない。


3 自衛隊の軍備


[1] 自衛隊員が携帯する装備
 イラクへ派遣されている陸上自衛隊は,けん銃,小銃,機関銃,無反動砲(発射ガスの一部を後方へ噴射させ発射時の反動をなくしたもの。対戦車・重陣地攻撃用火砲)及び個人携帯対戦車弾を携行し,また装甲車や軽装甲機動車を使用している。
 また,航空自衛隊の部隊は,C−130H輸送機等により輸送業務を実施しているが,けん銃・小銃・機関銃を携行するとされている。

[2] 武器使用基準
 イラク特措法17条は,「生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由」がある場合には,「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」で武器を使用できるとし,正当防衛又は緊急避難の場合以外は,人に危害を加えてはならない,と規定している。
 しかし,これは一定の基準を定立しているように見えても,武器使用の現場ではもちろんのこと,事後的な司法的審査の段階でも実効性を期待することはできない。なぜなら,「相当な理由」や「合理的な限度」という基準は,ゲリラ的奇襲攻撃が日常的に発生している現場においては,軍事的な観点からみた相当性や合理性を意味することは避けられないところがあり,その判断は全て現場の裁量に委ねざるを得ず,また事後的な司法審査においても事実認定は現場の証言によらざるを得ないところもあるからである。
 現に,防衛庁は,威嚇射撃等を経ずに直接攻撃できる場合を想定している。

[3] 陸上自衛隊の宿営地
 陸上自衛隊の宿営地は,自爆テロのトラック等からの襲撃を避けるために,サマワ市街から10数キロ離れた見通しの良い砂漠地帯に設置されている。宿営地は,約800メートル四方の土地を鉄条網で二重に囲み,堀や壕を掘り,施設内には赤外線センサーや監視カメラを設置するなど,まさに軍隊の駐屯地そのものとなっている。

[4] まとめ
 以上のとおり,自衛隊は,占領軍の一員として武力行使を念頭に置いた武装をしてイラクに駐留しているのであり,それはイラクへ侵略した占領軍への加担にほかならない。


第4 自衛隊派遣の違憲性・違法性 


1 憲法9条の持つ意義と役割

(1)「憲法」は「国家」を暴走させない「安全装置」である

 歴史上,国家は,しばしば国民の自由を奪ってきた。こうした反省から,国家の暴走によって国民の自由や基本権を侵害することがないように,国家を規制する目的で設けられたのが憲法である。従って,憲法は,「国家」を暴走させない「安全装置」としての役割を果たすのである。
それ故に,政府が憲法に反する行為をしているということは,国家が暴走しているということであって,まさに国民の自由や基本権が奪われ始めているということに他ならない事態である。

(2) 憲法9条の歴史的意義

  憲法9条は,以下のように規定する。
「@ 日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国  権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を  解決する手段としては,永久にこれを放棄する。」
「A 前項の目的を達成するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持  しない。国の交戦権は,これを認めない。」
 これは,日本がかつて“国益”と“自衛”を理由にアジア諸国を侵略し,世界中を戦渦に巻き込んだ反省から,二度と武力によって人々の命を奪うことのないよう設けられたものである。
日本は,20世紀はじめに無謀な戦争により,2000万に及ぶアジアの人々を殺し,300万にのぼる日本の人々を犠牲にした。他国を武力で支配しようとしたために,他国のみならず自国に住む国民の命と尊厳を奪った。この反省から,二度と武力の行使によって人々の命を奪わないことを誓ったものである。
 しかし,今回の自衛隊のイラクへの派遣により,二度と加害者にならないという誓いを放棄しようとしている。


2 イラク特措法は「戦力」を持つことを禁止している憲法9条に違反する(法  律自体の違憲性)

(1)

 憲法9条は第1項で,「戦争を放棄」し,戦争に至らない「武力の行使」や「武力による威嚇」もしないことを定めた。第2項では,戦争をしないために,「陸海空軍その他の戦力」を保持しないこと,戦争のときに交戦国に与えられる権利(交戦権)を認めないことを定めた。国に対して戦争のための実力を持つことも,戦争を行う法的な権利も禁止したのである。

(2)

 しかし,日本政府は,時々の政治的状況の中で,「解釈」によって「自衛隊は憲法9条に反しない」としてきた。政府は,「自衛隊は憲法に違反しない」という理由として“自衛権は国家にとって自然権だから,「自衛」のための「必要最小限度の実力」を持つことは許される”という解釈をとった。そして,憲法9条を前提としても,自衛隊が「自衛」の目的であること,「必要最小限度の実力」という2つの要件がみたされる限り,憲法9条に違反しないと国会などで説明してきた。

(3)

 このような政府の憲法解釈を前提としても,@「自衛」のためであること,A「必要最小限度の実力」であることは,自衛隊が憲法9条に違反しないというための絶対の条件だった。
 自衛隊は,「自衛」のための存在であるから,日本が武力攻撃を加えられたわけでもないのに,自衛隊を海外に派遣することは,政府の従来の見解からも違憲として許されない行為である。実力部隊が他国に踏み入ることは,一般にその国の(一部あるいは全部の)国民を「武力」によって抑圧することにつながるからである。
 1954年6月2日の参議院本会議で,「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」がなされたが,これは海外出動の目的や性格の如何を問わず,一切の自衛隊の海外出動を禁止したものであった。
 イラク特措法は「人道復興支援活動及び安全確保支援活動」を「派遣」の目的としてはいる(1条)。しかし,「自衛」の目的を超えて自衛隊が海外出動をした時点で,もはや自衛隊は「軍隊」に他ならなくなる。
 したがって,イラク特措法が「戦力」を持つことを禁止する憲法9条に反することは明らかである。


3 イラク特措法の自衛隊派遣に関する規定は,「武力の行使」を禁じた憲法  9条に反する(法律自体の違憲性)

(1)

 上述の如く、従来の政府見解によっても,イラクへの自衛隊海外派遣規   定は違憲となるはずである。
 しかし,今回,日本政府は,“「国際協力」「復興支援」として自衛隊が海外に行くのであって,「武力の行使」にあたらない,だから今回の派遣は憲法9条には反しない”と主張している。イラク特措法でも,その目的は「人道復興支援活動及び安全確保支援活動」だとしている。

(2)

 しかし,既に述べたように,「安全確保支援活動」とは,CPAの傘下に入り,その指揮の下,米英軍への後方支援活動を意味している。これは国際法上明らかに「武力の行使」にあたり,憲法9条の禁止する「武力行使」に該当している。この点で違憲であることは明白だからこそ,政府は「あくまで人道支援に行く」こと表面的に強調して真実をごまかす必要に迫られているのである。
 なお、2004年6月に,イラク暫定政府に主権委譲されたが,その後も実態はそれ以前と大きくかわることはない。 

(3)

 ところが,「人道復興支援活動」を行っている際に起こりうる「武器の使用」も,憲法が禁ずる「武力行使」にあたることは明らかである。
まず,自衛隊という「部隊」による「武器使用」は,それ自体が憲法が禁ずる「武力行使」にあたるため,自衛隊が武器を使用した場合には「武力行使」にあたる。政府は憲法が禁ずる「武力行使」と正当防衛行為としての「武器使用」とは違うと主張しているが,この区別は言葉の問題に過ぎず実際にこれらを区別することは非常に困難である。したがって,自衛隊による武器使用の可能性を認めた派遣である限り,それは憲法が禁ずる「武力行使」を行うことを認容したものと言わざるを得ない。よって,この点においてもイラク特措法は憲法9条に違反するものである。

(4)

 これに対して、仮に政府の見解どおり,「武力行使」と「武器使用」との区別が可能だとしても,やはりイラクへ派兵された自衛隊の「武器使用」は,憲法が禁ずる「武力行使」にあたると考えるべきである。
政府は,「武器使用」が「武力行使」にあたらない根拠として,“「武器使用」はあくまで自衛隊員が自己の身体を守るための正当防衛行為(「自己保全のための自然権的権利」と言っています)だから許される”としている。そうであれば,「正当防衛」が認められるために,あくまで危害は偶発的でなければならず,「武器使用」が許されるのは,あくまで危害が偶発的と言えるような地域,すなわち「非戦闘地域」でなければならないということになる。しかしながら,派兵される地域が「戦闘地域」であれば,そこは「戦闘行為」が「恒常的」に行われている地域であり,そこにおいては侵害が当然に予期されるものとなって、「戦闘地域」で受ける危害はもはや偶発的なものなどではなくなるのである。
 したがって,「戦闘地域」での「武器の使用」は,偶発性を前提とした「正当防衛」とは言えず,イラク全土が「戦闘地域」である状態での自衛隊の派遣は,イラク特措法に反するだけでなく,「武力の行使」を禁じた憲法9条に違反することになるのである。


4 自衛隊のイラク派遣を定めたイラク特措法は,「交戦権」の行使を禁止している憲法9条に違反している(法律自体の違憲性)

 憲法が禁ずる「交戦権」の意味について,政府は「戦時国際法における,交戦国が国際法上有する種々の権利の総称」と理解している。その中には「相手国兵力の殺傷及び破壊,相手国の領土の占領,そこにおける占領行政など」も含まれている。それ故,「相手国の領土の占領,そこにおける占領行政」に加担することは,「交戦権」の行使となり,憲法9条に違反する。
先に示したように,自衛隊はCPAの指揮下に入り,占領軍の一員として占領支配の一翼を担うことになり,イラクの領土の占領行政に加担する以上,自衛隊の派兵は「交戦権」の行使にあたり,憲法9条2項に違反する。


5 自衛隊のイラク派遣は,国際法上も明らかに違法な「侵略」にあたり,憲法9条の趣旨に反する(派兵行為の違憲性)

 国際連合憲章(以下,国連憲章)は,2度にわたる世界大戦の未曾有の凄惨な被害を前にした国際社会は,「われらの一生のうちに2度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救」うという決意を鮮明に宣言している(国連憲章前文冒頭)。そして,国際紛争の平和的解決義務を加盟国に課すとともに,「すべての加盟国は,その国際関係において,武力による威嚇又は武力の行使を…いかなる方法によるものも慎まなければならない」(国連憲章第2条4項)と定めて,全ての武力の行使を原則として禁止しているのである。国連憲章に違反する違法な武力行使は,不戦条約で禁じられた「侵略」行為である。
 この武力行使禁止原則の例外は,2つある。1つは,国連憲章第7章によって認められている集団措置としてなされる武力行使(国連憲章42条),2つは,「武力攻撃が発生した場合」の個別的・集団的自衛権の行使としての武力行使である(国連憲章第51条)。
しかし,米英の対イラク攻撃に対しては,安全保障理事会の決定はないのであるから,国連憲章第42条に基づくものでないことは明らかである。また,米英等に対するイラクの武力攻撃がなかったことも明らかであるから,自衛権の行使に当たらないこともまた明白である。
 したがって,今回の米英軍が行った武力行使及びそれに伴う軍事占領は,明らかに国際法上違法な「侵略行為」にあたると言わざるを得ない。
 国際連合のアナン事務総長も,2004年9月15日に英国BBC放送とのインタビューにおいて,イラク戦争は国連憲章に合致しない,違法なものであると明言しているのである。
 日本国憲法9条も,日本が侵略する立場にも,侵略される立場にも立たないことを目指している。自衛隊の派遣は,まさに侵略する立場に立つということであり,明らかに憲法9条の趣旨に反するものである。


6 自衛隊のイラク派遣は,イラク特措法に違反するものであり,違法である(派兵行為の違法性)

 イラク特措法では,基本原則を定める第2条の第3項で「対応措置については、我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる次に掲げる地域において実施するものとする。」と定められている。
 しかしながら、米英軍当局自身も認めざるを得ないように、現在もなお、イラク国内はその全土が戦闘状態にある。このことは、2003年5月1日、米国のブッシュ大統領が戦闘終結宣言を行って以降も戦闘行為による犠牲者が発生し続ける事実からも、また、「主要な戦闘は終結したものの、戦闘が完全に終結したとは認められない。」旨の答弁書を閣議決定した日本政府の態度からも明らかである。
 そして、このことは陸上自衛隊が派遣されているサマワにおいても例外ではない。
 2004年11月の日本人人質殺害事件にも象徴されるように、イラクの国民の側からみれば、人道復興支援活動を謳う自衛隊も、あくまで米英軍の一翼を担った外国軍隊に他ならないのである。
 これまで、日本政府は繰り返し「サマワの治安は比較的安全である。」などと宣言してきたものの、現実には、そのサマワにある自衛隊宿営地付近に着弾した砲撃事件が幾度となく起こっているのであり、それは自衛隊を標的にしたものと考えざるを得ない。
 これらの行為は明らかに現在のイラク暫定政府及び米英諸国軍に対する反対闘争と見るべきであり、このような闘争が現実に生じている以上、自衛隊の宿営するサマワはまさに戦闘行為が行われている地域と見るべきである。
 日本政府は、「戦闘地域」について、「国や国に準ずる組織・人による国際性、計画性、組織性、継続性ある攻撃が続いている地域」と定義するが、これによれば、当該攻撃が計画性や組織性があるか否かが判然としない場合、いかに戦闘行為がなされていようとも、その地域はあくまで「戦闘地域」ではないことになる。
 しかし、小泉首相は「イラクのどこが戦闘地域かどうかなどわかるわけがない」旨の政府見解と発言しており、そもそも、当該地域が「戦闘地域」であるか「非戦闘地域」であるかの判断を放棄しているのである。
 また、最近の党首討論で小泉首相が,「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域だ。」と述べたのは記憶に新しいが,これも政府が,「非戦闘地域」の要件を厳密に認定することなく,自衛隊をイラクに派遣していることを如実に示している。
 これらの各発言は、イラクに「非戦闘地域」と認定できる場所はないことを自白したものと言ってもよい。この首相発言は,自衛隊のイラク派遣がイラク特措法にも反する,極めていかがわしい実態を持つことを認めたものである。
 現在のイラクの戦闘はイラク暫定政府及び米英諸国軍に対する反対闘争とみるべきであり,まさに戦闘行為の行われている地域とみるべきである。
 よって,今回の自衛隊派遣は戦闘行為の行われている地域への派遣でありイラク特措法に違反するものである。


7 主権委譲後の自衛隊派遣の違憲性・違法性


[1] 多国籍軍への参加

  2004(平成16)年6月28日,連合国暫定施政当局(CPA)からイラクに主権が移譲された。これに際して,日本政府は国会審議も国民的論議もないまま,イラクに派遣している自衛隊をイラクに駐留している多国籍軍に参加させる決定をした。
  従前,被告は,自衛隊のイラク駐留の法的根拠は,イラクの占領行政組織であるCPAの同意にあったとしていた(但し,従前の自衛隊のイラク駐留も違憲違法であることは前述のとおりである。)。しかし,CPAは本年6月28日のイラクへの主権移譲によって占領を終了し,同月30日をもって解散した。従って,被告の見解によっても,CPAの解散と同時に,自衛隊のイラク駐留の法的根拠もその基礎を失い消滅した。よって,自衛隊のイラク駐留には法的根拠なく違法となる。


[2] 多国籍軍参加の違憲性・違法性

 これに対して,日本政府は,国連安保理決議1546号によってイラク駐留を認められた多国籍軍に自衛隊が参加することによってその法的根拠を確保しようとした。
  しかし,イラクに派遣されている自衛隊が多国籍軍に参加することによっても,その違憲性・違法性は変わらず,むしろますます違憲性は強くなる。

A イラク多国籍軍はイラクでの武力行使を中心任務とする連合軍である

  イラク多国籍軍が武力行使を中心任務とする多国籍軍であることは,2004(平成16)年6月8日に可決された国連安保理決議1546号からも明白である。同決議は,「イラク情勢は国際の平和と安全への脅威である」と認定し,「国連憲章第7章に基づいて行動」すると規定している。国連憲章第7章は,同憲章第6章で定める平和的手段によって解決できない国際紛争について,武力行使などの強制措置で対処すると決めている。また,同決議は,「多国籍軍は,・・・治安維持に貢献するために必要なあらゆる措置を取る権限を有する」としており,多国籍軍の任務に「人道・復興」が含まれているとしても,それは武力行使を含む「治安維持」と切り離されるものではない。同決議の主眼はあくまで「治安維持」「武装集団に対抗するのに必要な活動」「イラク軍の訓練と配備」なのである。
 同決議の付属文書であるパウエル米国国務長官の安保理議長宛書簡(8月5日付け)は,この点をより明確にしている。同書簡は,「旧(フセイン)政権構成者,外国人戦闘員,違法民兵を含む暴徒」をイラクへの挑戦者と描いている。その上で,多国籍軍の任務として,暴力を通じてイラクの将来に影響を及ぼそうとする勢力による脅威への対処,これらの勢力との戦闘,イラク治安部隊の訓練等を列挙している。しかし,人道援助については「人道援助供与の準備もする」と補足的に述べられているだけである。さらに,同書簡と対応するアラウィ・イラク暫定政府首相の安保理宛書簡も,イラクの「政治的移行にとって安全と安定は最も重要だ」とし,多国籍軍の任務として人道支援は挙げていない。
 さらに,イラク特措法の安全確保支援活動に基づき,航空自衛隊は他国の軍隊の兵員や弾薬を輸送することが可能となり,現にそれを実施している。この自衛隊機で輸送された他国の軍隊や弾薬によりイラク住民を殺傷すれば,自衛隊のかかる行為は武力行使と密接に関連するものであり,「武力行使と一体」なものと評価される。そして,これが憲法違反となることは明白である。

 B 自衛隊は独自の指揮権を維持できない

 日本政府は,自衛隊は日本の指揮下にあって「多国籍軍司令部の指揮下に入るわけではない」と説明している。
 自衛隊は,イラク主権移譲後,米軍を主力にした「多国籍軍統合司令部」の「統一指揮」下に入っていることは明らかであり,かかる自衛隊が「独自の指揮権を維持する」ことは現実的にはあり得ない。
 すなわち,多国籍軍という連合軍である限り,それに参加するということは,最終的には多国籍軍の「司令部」の「指揮権」=作戦統制権に服することを,各国が承認することを意味する。実際,米国国防総省の多国籍軍活動の指針である「多国籍作戦のための統合ドクトリン」(2000(平成12)年4月5日付)は,多国籍軍に参加する各国部隊が,各国政府の指揮を受けつつ,多国籍軍司令官の指揮下におかれることを当然の前提とした上で,「明確に定義され,すべての参加国に理解された使命,任務,責任,権限に関し,(多国籍軍)参加諸国は最大限可能な範囲で,作戦指揮の統一の達成に努力すべきだ」と強調している。マクレラン米大統領報道官も本年6月15日の記者会見において,多国籍軍に参加する各国部隊は各国の指揮下に入りつつ,「多国籍軍全般は米国の指揮によって統括される」と明言している。
 従って,自衛隊が多国籍軍へ参加した状態で独自の指揮権を維持し,多国籍軍の指揮を受けないということはあり得ず,多国籍軍の武力行使と一体化するものとして憲法違反となることは明白である。

C 被告自身これまで多国籍軍への参加は憲法違反であるとしてきた

 以上のように,多国籍軍へ参加することが憲法違反であることは従前被告も認めていたところである。それ故,自衛隊はこれまで海外に出動することがあっても,多国籍軍には一度も参加していなかったのである。
 従って,今回の多国籍軍参加はこれまでの被告の説明と矛盾するものであり,多国籍軍参加の正当な理由も何ら有さないものである。


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